Eno.533 クロッシェ

どこかの貴方達へ、ボンボヤージュ

夜明けの気配を感じて私は瞼を開けた。

視界に飛び込んで来るのは、朱と紺がまじりあった空の色。
薔薇色に染まった水平線。
聞きなれた海鳴りの歌。

いつの間にか停泊中の船の上で寝てしまっていたようだ。

酷く懐かしいような初体験のような不思議な夢を見ていた。

どこかの島に漂着して、そこに自分と同じく辿り着いた人達と一緒に無人島から脱出するために活動する夢。

拠点を作り、水を汲み、木々を倒して……。
離れ小島や、沈没船の探索もした。

風呂に皆が入る度に、何故かアヒルが乱舞していた。

「アヒルバトルといったか?
よく意味は分からなかったが楽しげだった」


自分の名前がついた花火も打ち上げた。
たくさんの花火が綺麗だった。

自作のイカダが海に負けてばかりで、悔しくなって直す度に海に挑んでは流されて。

呆れられていたな。
イカダバトル? そんな海の漢チャレンジが島を脱出しても続いていたのは不思議な現象だ。

協力して船を作り上げた時はとても感じいった気がする。

夢のはずなのに、妙にそうとは言いきれない気もする。

手元にある見知らぬ船の設計図が記された羊皮紙を見る。

どこかで手に入れたのだったか?

「ま、いいか」

副船長を起こして出立の用意をしなければいけない。

きっとあの島にいた彼らも、彼らの旅路へと戻ったのだろう。
どうか良い船旅を。

短く朝日に祈り、帆を張りに行った。