Eno.610 エポラ

ただいまの歌 おわかれの歌



海が重なり、歌が重なる。
船の下、寄り添い合うよなハミングが ひとつふたつと増えていく。

嗚呼─── ただいま!

弾む鳴き声高らかに。波間に響いて飛沫を散らす。
あたたかな体温がいやに懐かしくて、甘えるように喉を鳴らしてしまうのだ。


しかし、帰ってきたということは、もうお別れということで。



◇◇◇



お友達を乗せたフネは、遠く遠くに行ってしまうところでした。

陸の生き物と海の生き物。
7日間も一緒にいられたこと。それ自体が奇跡のようでした。
まったくシャチは幸せでした。
陸から聞く潮騒を 好ましく思ってしまうほどには。




◇◇◇



船底から射し込む光に紛れ、
ほんの片時、懐かしい顔と 聞きなれた声。

陸の諸君の行く末に、どうかシャチ多からんことを!




シャチは高く跳ねました。
大きな声で歌いました。

大きく振った胸ビレが バイバイ!と別れを告げるよう。
今度はちゃんと、見送ることができました。

そうしてシャチは、家族と共に。
あたたかな波に揺られ、雄大な海を泳いで行きました。