Eno.820 オト

---ただいま---

みんなできらきらの星の記憶を見て、またお腹いっぱいごはんを食べたあと。
彼は、海とどこかの川が交わるあたりで船から降りて、水の中を泳いでいきました。

あの島にいたときはうまく水に潜れなかったけど、不思議とここからなら泳いでいけると思ったのです。

だいたい1時間ほど。それはこの種族が呼吸をしなくても、自由に水の中を動ける時間。
彼は何も考えず、ただのんびりと大きな川を泳いでいました。



そして呼吸をするために水面に顔を出すと、目の前に見慣れた景色が広がっていました。

水辺にいくつかならぶ、木でつくられた簡素な家。
周りには、彼によく似た姿の大きなトカゲたちもいます。

「あれ、いきてたのか…?」


「どこいってたんだ!」


そんな声があちこちから聞こえます。
あの島で聞いていた言葉とは違う言語でした。

「さかな とりいってた」


彼は変わらず、いつも通りの返事をしました。
言語はちがうけど、彼はいつもこんな感じなのです。

「で、とれたのか?」


「たべた」


「??????」


そりゃあ、理解できないでしょう。

「やいたのも うまかった」


「やいたの」


「にんげんは とっても やさしいんだ」


彼はとにかく、いろんなことを話したくてしかたがありませんでした。

「……おかしくなったか?」


「まぁ、あとでじっくり聞かせてくれ みんな心配してたんだぞ」



しかし彼はとっても説明が下手くそでした。仲間の頭には何度も「?」が浮かんだことでしょう。
それでも、なんとか彼なりに島であったことを伝えました。
最初は疑っていた仲間たちも、彼が持ち帰ったたくさんの知識に驚き、次第に興味を持ち始めました。


人間と様々な種族が仲よく暮らすには、とっても長い時間がかかるかもしれません。
でも少なくとも彼の周りでは、人に対する気持ちが少しずつ変わっていったのでした……




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二足歩行の大きなトカゲの種族は、ある世界ではリザードマンと呼ばれ、人々を襲う敵としてえがかれていました。

ですが彼のように、人間に友好的なリザードマンもいるかもしれません。
またどこかで見かけたときには、怖がらず、いろんなお話を聞かせてあげてください。

そしてあの島で、彼の姿が時々変わっていたのは……
人間に怖がられるかもしれない、そんな気持ちがどこかにあったからかもしれません。

とっても鈍感な彼ですが、あの島でいろんなことを学んで、たくさん悩んで、少しだけ成長していることでしょう──