Eno.147 轟オト

海だった。

絶海の孤島。
隔絶された海。
それらは全て心地の良い孤独だ。

己と似た気配すら覚えるけれど、飲み込んでは吐き出すその機構だけは決定的に異なるものだろう。

だからこそ此処に居続けることはできなかったし、
居続けようともまた思わなかったのかもしれない。

元々いた世界の海が近づく程に、未だ完全にとはいかないが
浮ついた意識は潮が引くように静まりつつある。

砂浜を、岩場を、森林を。
離れ小島を、漂着船を。
駆け回り、飛び越え、遊び尽くした。

本来の世界では到底叶わない経験。
意識が波に漂うようだった時の記憶は正しく泡沫である。
けれども、僅かばかりは残滓が片隅に。

「………………」



首元にかけた貝殻のペンダントを弄る。
向こうの自分では語れなかったこと、行動に移せなかったことをたくさんできたのだろうか。

此処を日常にすることはできない。
だからこれは一時の夢。
されど全てを忘れることはない夢だ。

やわらかいしあわせパンケーキ。
━━流壺くんを料理部に誘ってみようかな?
千尋くんとはまた甘いものを食べてもいいかも。

あやしげな色のキノコとふわふわウエス。
━━先輩にまたイサナを拭いてもらいたいな。

カニさんとうさちゃん。
━━可愛いお菓子を早霧ちゃんと作ってみたいかも。

不格好でも一生懸命な蒸しパンとかにぱんの味。
━━不思議とまた食べたいと思った。

「ずーっと、楽しかったね」



帰ったらまずは何をしよう。
どれくらいの時間が経っているかは戻ってみないと判らないけれど
家に戻って、家族に会って、それから友達や大切な人に会いに行こう。

これからもあなたと日々を過ごしていこう。
7日間の漂流生活は、これでひとまずおしまいだ。