Eno.502 多比良 夜伴

無題

そうか、百目鬼の親族やら國見の連中が俺に『外で飲むな』『一人で飲むな』と言っていた意味がようやく解った。

俺…酒癖、滅茶苦茶悪いじゃん。

あまりの変貌に少し笑っちまうが、口元が引き攣れたくらいのものだろう。



巳溟に体を奪われてどのくらい経ったのか。

気力はとうに折れていた。
認識阻害のせいか誰にも俺が俺ではないと気づかなくて、どれだけ叫んでも声は届かなくて、見たくない物を見せられて。
自分の選択の結果とはいえ、折れないほうがおかしいだろ。

けれど蛇は俺が壊れる事を由としない。
限界になる寸前で、こうして優しい夢を見せる。

今回は少し前に起きた、ある島での出来事。

蛇は介入できなかっただろうから、俺が無意識下に覚えていた記憶を投影しているんだと思う。


…そっか。
あのめざしくれたの、毛玉だったのか。
酔って忘れてたなんて言ったら怒るかな。…怒るだろうな。

もやしにもちゃんとお別れ言えていたみたいだ。良かった。
今も元気でやってんのかな。
白衣着てたし医者とかなんだろうな。陽桜市に住んでたりしたら面白いのに。

他の奴らも無事に帰れたかな。
帰れてるといいな。
あの怪しい奴はまだ少し気になるが、この身ではもうどうしょうもない。

…雨ケ谷。
こんな醜態見たら認めるしかない。
好きだ。好きだった。今更、おせーけど。
羽崎と元気にしてたら嬉しい。



ああ、もうこの夢もおしまいみたいだ。
俺を船室に運んだ男の背が離れていくにつれ、映像はぼやけていき…やがて消えた。

………もう少し、見ていたかったな。

名残を惜しみ、見た夢の余韻が少しでも残るよう願いながら右目の瞼を閉じる。

くらい、いたい、つめたい、さみしい、こわい。
そんな気持ちに蓋をして、夢に縋る。


蛇の這う音や冷たい皮膚にも慣れてきたのに、体は鉛のように重くて動かないままだ。

ただ終わりを願う事しか出来ないまま、眠りに落ちていく。

どうか、もう目がさめませんように。
…そう祈って。