Eno.684 シジリ・クロバ

■--■日常

島で出会った者達と明るく別れを済ませた後、
彼女は船を降り、軽快な足付きで駆けていく。
降りたばかりの地は、元々あった地なのか、振り向けば無くなっていたのかは分からない。
きっと皆にはまた会えるから。そう信じて、彼女は振り向かずに駆けて行ったのだから。

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無人島での生活も、船旅も、やがて終わり…神獣の彼女は見慣れた土地へと戻ってきた。
慣れ親しんだ商店街のゲートの前に立ち、深呼吸をする。
“あぁ、帰って来たんだ。 わたし…無事に帰ってこれたんだ―”
様々な感情が胸の中に込み上がりながら、ゲートを見上げる。

時間帯と日にちの問題か、今の商店街は普段よりは人気が落ち着いているように見える。
この場にとどまっていたらたまたま居合わせた、神獣の知人である商店街の関係者が、
久々に姿を見かけた気がする彼女に驚愕の反応を示した。
…彼の話によると、神獣が親しんだ店は定休日との事らしい。
それならゆっくり顔を合わせられるかな、と胸を撫で下ろし、
教えてくれた知人に会釈をすると、商店街の中を歩み、進んでいく。

しばらく歩いていくと 慣れ親しんだ食堂、「よつば屋」の前に、神獣はやってきた。
定休日故か、店の入り口には暖簾はなく、定休日の看板が掛けられていた。
“何でだろう…慣れ親しんだ所へと帰ってきたはずなのに…とても緊張している。”
しばらくの間この場所を離れて、どう思っているんだろう、やはりあの人は寂しがっているのだろう
そういう考えが脳内に巡っているためか、神獣は緊張していた。
けれどいつまでもこう立ち止まってられはいられない。
…彼女は、戸の呼び鈴を鳴らした。聴き親しんだ声が、戸越しに帰ってくる。
そして、戸を開け、目に入った人物が、目を丸くして、しかし感激の表情を浮かべて近寄ってくる。



………シジリっ…!!

名前を呼びながら、女性は神獣の体を優しく抱きしめる。

「おかえりなさいっ…!無事帰って来てよかった。とっても、心配していたのよ?」
「あはは…やっぱり心配しちゃってたかぁ…ごめんね、ちょっと気分が舞い上がって…食材持ってくるなんて言っちゃって…」
「いいのいいの、それだけこのお店と、私の事を思ってくれているのでしょう?ほら、お腹減っているでしょう?はやくあがりなさい?」

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そして神獣は、恩人である店の店主と再会を果たした。
神獣にとって思い出の味であるオムライスを食べながら、
島での事をたくさん彼女に話した。

「結局、無人島行っちゃった影響で…目当ての食材は持って帰れなかった。だけど、凄い経験、思い出がいっぱいできたんですっ。」
「向こうで弓を作って狩りとかしたんですよ~。なかなか難しかったんですよ~?」
「無人島にある物でもオムライスを作れたんですよ!我ながらいい出来だったと思います。」
「向こうでお世話になって下さった方が、木の枝で御守りを作ってくれたんです。わたしに相応しい文字まで入れてくれて…宝物なんですっ。」
「おっきいシャチさんの背中に乗せてもらったんです!とっても心地よい気分でしたよ!」

経験した事を、噛み締める様に思い出して、主人に話す。

「本当に色々な方達が居ました。商店街の方々みたいに、皆色々と個性があって、だけど起こった事には一生懸命立ち向かって…本当に、凄い方々でした。」
島で共に過ごしてきた者の話も、当時の事を思い出しながら話す。
彼ら、彼女らは今はどう過ごしているのか。そんな事を思いながら。

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その後日、神獣は再び世話になった恩人の営む店で働き始める。
特別変わった事はないが、温かく、穏やかな日常。
活気ある店で楽しそうに働く店員たち。美味しい料理に舌鼓を打ち、笑顔になるお客たち。
“当たり前の日常”を、神獣は、噛み締める様に今後も過ごしていくのだろう。
“あの島で出会った者達”もいつかお客さんとして来ると信じて。








余談だが、この店では“サバイバル定食”なるものが期間限定で並んだらしい。
もちろん、店で出せるようにアレンジはされているが。