Eno.139 河相 都々之

海の彼方に沈める草葉、潮風追って振り向いて

私たちの乗り越えた大きな危機への、カウンターだったはずのバカンスは。
私たちの乗り越えた小さな危機になって、いま水面の向こうへ姿を消した。

だからといって、大きな何かが変わるわけではなくって……。

沈む夕日に染まりながら、行き先を見つめるあなたを後ろから見てる。
湿った風が時々あなたの長い髪を揺らすのを見ている。
私よりずいぶん厚着な服装は、暑くないのかしらなんて思いながら。

普段はものぐさで、いい加減なことを言って、いざという時に逃げも隠れもするわりに、
島でも海でも手際の良いあなたに口を出す必要もないから……
私はいつも、お水を汲んで、草を編んで、今は荷物をまとめたりなんて出来るのだけれど。

そんな、なんでも一人でできちゃうあなたにこそ。
潮目や風向きに合わせて時々伸ばす、少し擦り切れた指先に、可愛い絆創膏を貼ってあげたい。
季節の色を映した花を、そっと生活に添えてみたい。
要らないかもしれないちょっとした彩りを、押しつけがましく乗っけておきたい。

だって、それが剝がれた時に、枯れた時に、どこか薄れてしまった時に。
私のこと、思い出してくれたら嬉しいでしょう?

「天菜さ~ん!デザートのプリンも残ってますよっ」



なんてそんなの、わざわざ言わないんですけどね。



強く吹いた風に、リボンがなびく。
吹き抜けた風を思わず目で追えば、そこにはもう木々の枝葉を残して沈んだ島の跡。
二人の日々を、海の向こうの秘密にして。いつか遠い日に、また顔を出すのでしょうか?
知らないけれどきっともう、私たちには関係のない話。

もうじき、どこかの港が見える。
追いついてきた日々が、私たちを迎えに来る。
惜しいことはないですよ、だって……何度だって次はやってきますから!