Eno.715 岐志 定光

僕について

幼い頃の僕は過保護な母さんの目の中で、『正しさ』母さんの価値観を学ぶこどもだった。

少し大きくなった僕は、『正しさ』を守ろうとする臆病な子供になった。

そうして大人になった僕は、すっかり『正しい』ことが当たり前になっていつしか自分を失くしてしまっていた。

母さんが僕を大事に想ってくれていたことは分かっていたし、僕も母さんを大事に想っていたからそのことについて恨みはなかった。

…けれど、少しだけ。少しだけ。
『正しさ』じゃなくて『自分自身』を育ててみたかったとも思っていた。

そうすればきっと『正しさ』だけじゃなくて、『自分』の意見というものを言えただろうから。
そうすればきっと、本当に間違えてはいけないことを間違えたりはしなかったから。

島に来ることになった日。
結局僕は綺羅羅さんの嘘をなかったことにして、それが莉衣菜の為になるとして、全部に見て見ぬふりをしようと決めた。
大事に想っているのは確かなのだから、それを壊さないようにしようと決めて。
そんな勝手な思いやり事なかれ主義を胸に抱いていた。

でも、それでは駄目だって今なら分かる。
大事だからこそ、傷つけないことばかりじゃなくて、傷つけてでも動いた先のことも考えなくてはいけないんだ。
大事だからこそ、その2つを見比べた上で自分自身が責任を負いながら選ぶ必要があるんだ。



帰ったらまず綺羅羅さんと話し合おうと思う。
そうして二人で莉衣菜の為に一番なることを選べるようにしようと思う。
できる限り三人が望める関係を築こうと思う。

それが綺羅羅さんを嘘つきにしてしまった僕の償いで、莉衣菜の親になった責任で、今の僕自身がやりたいと思っていることだ。