Eno.820 オト

---その先のおはなし---

島を出てから、数ヶ月がたった頃。

彼はまた、村から少し離れた川で魚を探していました。

でも、彼が探しているのは魚だけではありませんでした。


「……オト?」


振り向くと、そこには人間の女性が立っていました。
その顔には、見覚えがありました。

「やっぱり!ひさしぶりね。私のことおぼえてる?」


「……!」


彼──オトは嬉しそうにうなずくと、水からあがってきました。

「前に会ったのは20年くらい前だったかしら?ずいぶんたくましくなったのね。わたしはすっかりおばさんになってしまったわ」


この場所は、彼女と初めて出会った場所でした。だからもしかしたらまた会えるかもしれないと、ひとりで何度もここへ来ていたのです。

あの時……島にたどりついてしまう前も、こうして魚を探しながら、彼女を待っているところでした。

「ごめんね、大人になったら、なかなか会いにいく機会がなくて……」


オトは首を振りました。
そんなことより、話したいことがたくさんあったのです。

「たびを してきたんだ いろんなひとと あって それで……」


何か思い出したように言葉をきると、どこかへ走って行ってしまいました。

「ほんとにあの子、不思議な子ね……」


“いつも通り”な彼の様子は、彼女にはとても愛おしく思えるのでした。

少しして、オトは何かを持って彼女のところへ戻ってきました。

「これ やる」


それは、あの島で拾った貝殻で作ったネックレスでした。

「あら、素敵なネックレス…!自分で作ったの?」


「なかま だからな!」


「……ふふ、ありがとう。大切にするわ。あなたみたいに優しい子もいるって、みんなにわかってもらえたらいいわね」



その後、オトは島であったことをたくさん話しました。
いろんな人に出会ったこと。見た事がない魚の話や、みんなでご飯を食べたこと。

その時の彼は、今までに見たことがないくらい、とっても楽しそうな顔をしていたのでした──








「……え!?名前言わなかったの!?あぁもう、ほんとにあなたって……!!」