Eno.795 ロカ

歩き出す男

救助船が、毒にまみれた俺の国にたどりついて、停まった。
誰もいない浜辺に降ろしてもらって、故郷の土を踏む。

毒の海をものともせずに進んできた船は、振り返ると姿が無い。
きっと、俺の常識の中におさまるものではないのだろう。

流された島も、海続きの場所にある外国とかじゃなくて。
出会った皆も、たぶんそうなんだろうって、薄々わかっていた。

だから今更もう、不思議ではない。
ただ、楽しい時間があったこと。それが確かな現実だった。


何も見えない水平線をしばらく眺めてから。
緑の見えない陸地へ、体を向けて、足を動かす。

背負った荷物籠には、大事なおみやげがつまっていて。
体の中には、栄養と、ちゃんと芯の通った元気がつまっている。

手には、透明な杖もある。重さも形もないけれど、支えになるもの。
神さまと言う名の、目に映らず、体に触れぬまま、支えてくれるもの。


さて、まずはどこかの支部にたどり着かないとな。
足を動かす。前へ。先へ。未来へ。
その元気をもらったから。どこまでも。どこまでも。

いつかを目指して、歩いて行く。