Eno.220 ヤドリ

捨てる神あればなんとやら

18歳を迎えた若者は、ある日王様に呼び出されました。
何事をやらかしたのか、戦々恐々としながらお城に向かうと王様は突然こう言いました。

『悪い魔王が復活して、世界に魔物が溢れかえっている。勇者として、魔王を倒してきてほしい』

突然のことに驚いたものの、はいと強く頷いた勇者は冒険に旅立ちました。

旅立つはずでした。

同じことしか話さない門番、話しかけても何も言わない村人。
建物はあるのに、どうしてか中には入れない武器屋。
タダのやくそうしか売っていない道具屋。
影も形も見えない魔物。
中身が空の宝箱。

勇者を置いて、凍り付いてしまったように動かない世界。
世界全体が悪い病気か魔法にかかったようなその現象を、創造主の世界ではこう呼びます。

『エタった』、と。

けれども、勇者にはそんなことはわかりません。
一人の神様が手放した世界で、埃を被りはじめた何もない道を歩きます。

行けるところは全て、手に入るものは全て、見て触れて食べてみました。
何かが起きることを信じて、ひたすらに。
何万回目かの試行。本来ならば船で渡っていくはずの他の大陸に、泳いで行けないかと海に飛び込んだ勇者は──

「やくそう全部流された……俺の大事なごはんが……」