神託通信⑧『語られざる人の物語』
おいおいおいおい……!
本当にこれでいいのかよ!?
お前の大事な母親を殺しておいて、
あの女は男と幸せになるって言うぜ?
結婚式にはみんな来てね~、だってよ。
まさか行くつもりじゃねぇだろうな。
勇者に言えばよかったじゃねぇか。
やっぱり魔王を殺してくれって。
でも出来ねぇよな。
だってどうにもなんねぇもん。
あいつらみたいに好き放題してやりてぇのに。
お前にゃそんな力はねぇからな。
運命も。才能も。
あるのは凡人の時間だけ。
それが分かってたからこうしたんだろ?
素晴らしい未来ってやつにすべてを投げたんだ。
未来が輝いていれば、
今のみじめな自分を見ないで済むからな。
お前はこの先もそうやって生きていくんだろうよ。
都合の悪い本音から目を背けるために、
未来だけ見て歩いていくんだ。
死ぬまで。

「……」

「イメル、どうしました。
そろそろエゾデスへ到着する頃では?」

「……あぁ、教皇。
いえ、少し…… 気持ちの整理を」

「大丈夫ですか?少し顔が青いようですが」

「アンスティへ渡すアイマスクを作るために
ラベンダー畑に頭を突っ込んだ際の勲章です。問題ありません」

「ほんまかいな」

「教皇様」

「なにか?」

「私たち人間の美徳とは何でしょうか?」

「なにを今更」

「人を憎まず、羨まず、相手を愛すること。
あなたたち勇者パーティーや魔王軍の互いを許しあう心が、
今回の戦争を終結させたのでしょう?」
許せるわけがない。
不満もある。
劣等感だって感じている。
旅に出るより、ずっと前からだ。
怒りがあるし、憎しみがあるし、
殺してやりたいやつだっている。
それらを言葉にしてぶちまければ、
相棒は、兄貴分は、姉貴分は、母は、祖父は、仲間たちは、
私を叱ったり、なだめたりしてくれたかもしれないが。
私はこの殺意を大事にしまって、
日々の努力の糧にした。
才能のない凡夫が英雄の隣に並び立つには、
地獄を見る覚悟で研鑽に挑まねばならない。
この心に巣食う殺意を飼い慣らし、
死ぬ気ではなく、殺す気で、
強くなるために努力し続ける道を選んだ。

「……時に、教皇。
エゾデスから帰ったあと、私はどうなりますか?」

「どうなりますかじゃねぇよお前お前お前。
あっちこっち大変なことになってたんですからね」

「まぁ今まで大事なこと私とジイちゃんで全部黙ってましたからね。
反逆罪で首をはねられてもおかしくないところ」

「そこはなんとかなりました。
お前帰ったら肩とか揉めよクソ孫がよ。
だから心配しないで帰ってきなさい」

「はい。わかりました」
選ばれしものの物語があるのならば、
選ばれなかったものの物語もある。
彼らの想いはどの伝承にも残らない。
その努力が詩に詠われることもない。
しかしそれは確かにあったらしい。
輝かしき勇者の軌跡の、少しだけ近くに。
私のお話は、ただそれだけのこと。

「楽しみですね、次の冒険が」
『勇者ユウの伝説 失伝』
語られざる人の物語
THE END