RECORD

Eno.76 ミシェル・サハスラーラの記録

閑話休題 No.1

「……本当に、今日は色々ありすぎた」


いつもの自己対話は、今日はなしだ。
ちょっと、諸事情で。
そんな事はここではできない。


「……本当に、アードがいなかったら、どうなってたか」


少なくとも、正気のままではなかっただろうな。

「あいつが、ずっと居てくれればいいのに」


一度も叶わなかった願い、おそらく叶わない願い。
期待なんて、するだけ無駄なのだ。
皆、いなくなっていく。死んでいく、消えていく。
ヤコブは傍に居てくれるが、あいつは酷く変わってしまった。
俺は、そんなことは望んでいない。
そんなことばかり。


「…………挙句、あんな話」


耐えられると、思うか。
この身に棲んでいる、『嫉妬』の悪魔は。
いつだって俺を飲み込もうとしている。


「まあ、それも結論がついたことだ」


けれど。
俺は、知っている。
誰も、誰も、残らないと。
俺の傍には、誰も残らないと。

そう、彼女が言ったとおり。
きっと、俺は、また一人孤独になるのだろう。


「折角、俺のことを思って言ってくれたのにな」


手を、伸ばして。
そっと、触れた。


「ごめん、嘘をついてしまって」


君は、言ってくれた。
あなたと、あなたの街のため、と。
その街が、もしただの街でなかったとしたら。
俺を孤独にするための街だったとしたら。
君は、どんな顔をするのだろうか。


「せめて、」


君一人だけでも。
きっと、この願いは、叶わない。

俺は。


「彼女の作った、永遠の、孤独の檻に閉じられている」


……こんなこと。
今考えることでは、ないな。
折角、こんなにあたたかい日なのに。

全て、失うと、しても。


「俺は、たとえ今だけでも──」


その手の、行き先は。
わからない。



────ふと、波の音が、きこえた。
俺の中の、水が。海が。運河が。都市が、魂達が、命達が、何かを訴えている。



「……何か、嫌な予感がする」


このまま、起きていよう。嫌な予感というのは、当たるものだ。
今朝みたいな目は、懲り懲りだ。


「とりあえず、いつでも横に居られるようにしておくか」