RECORD
Eno.378 カナリア・クリフォード・ディアの記録
令嬢、2年前に宣告される
それは、2年前。
祖父に言われた事だった。
家が傾き続け、最早立て直しは困難だと祖父は判断していた。
それでもまだ孫娘を守るため、そして従者を守るため、無理を押してあの手この手で支えていた。
呼び出された令嬢は、祖父の話に耳を傾ける。
「カナリア。
流石に理解していると思うが、我が家はじき、取り潰しとなるだろう」
「お前を守りきれず、すまなかった。
お前がこの社会でやっていけるよう、尽力はしたつもりだが。
分かっては、いるだろうがな」
祖父の手が、令嬢を撫でる。
ごめんなさい、お祖父様。不出来な孫娘で。
これでは貴族として家を守り続けるのは不可能だ。
「どうにか、お前の生きる道が見つかれば良いんだが。
……雇った者は、残りも他所に斡旋しなくてはならないな」
使用人は徐々に減っていっていた。
今は本当に少ない。片手に数える程。
斜陽の貴族の家に仕え続けようという奇特な人間はそうそういない。
それでもクシェルは付いてくれている。
きっとこれからもそうだろう、という信頼がある。
こんな不出来な主だけれど。
祖父が、顎髭を撫でながら口を開く。
「……特にクシェルは、我が家にはもったいなさ過ぎる。
お前に良く付いてくれているが、あの能力はお前には。
私の方でも探しておくが、そうだな」
勿体ない。
急速に心の奥底が冷えていった。
勿体ない。もったい、ない?
「なるべく早くに、良い主か、或いは職に斡旋しなくては」
上の者として、下の者の世話をするのは当然だ。
如何に家族のような仲の良さがあれども。
それは貴族として、当然の行いだ。
――そして此処にいるのは、祖父と孫娘であり。
ディア家の現当主と元次期当主、或いは婿を迎え入れるべく育つべきだった令嬢である。


祖父の手が優しく頭を撫でる。
一方で、少女は思った。思ってしまった。
当たり前のように彼は傍にいると思っていた。
事実、彼はそのようにしてくれただろう。
だが敬愛する祖父が、”勿体ない”のだと言った。
――彼の未来を、優先したのだと、思ってしまった。
それが当たり前だと思いながらも、少女は胸が痛くなる。
祖父に愛されている。間違いない。
けれど優先されたのは、貴族としての矜持と責任である。
或いは彼の未来。
だから少女は学んでしまった。
すでにこの頃、地に落ちていた自己肯定感と、何もできないが故の膨らみ続けた自己否定。
己を愛する祖父ですら、そのように言うなれば。
それが正しい。
だが、それが辛い。
けれど、祖父が言うならば、それが正しい。
それが、正しい。
どれだけ共にいる存在であろうとも、己には勿体なくて。
貴族としての努めも果たせないような、令嬢としての価値のないような己は。
きっとひとりでいるべきで。
ひとつ、祖父が違えたとするならば。
孫娘へかけた、この言葉だったのだろう。
それは孫娘の前向きさや、不屈の精神を見ての言葉でもあったのだろうけど。
祖父に言われた事だった。
家が傾き続け、最早立て直しは困難だと祖父は判断していた。
それでもまだ孫娘を守るため、そして従者を守るため、無理を押してあの手この手で支えていた。
呼び出された令嬢は、祖父の話に耳を傾ける。
「カナリア。
流石に理解していると思うが、我が家はじき、取り潰しとなるだろう」
「お前を守りきれず、すまなかった。
お前がこの社会でやっていけるよう、尽力はしたつもりだが。
分かっては、いるだろうがな」
祖父の手が、令嬢を撫でる。
ごめんなさい、お祖父様。不出来な孫娘で。
これでは貴族として家を守り続けるのは不可能だ。
「どうにか、お前の生きる道が見つかれば良いんだが。
……雇った者は、残りも他所に斡旋しなくてはならないな」
使用人は徐々に減っていっていた。
今は本当に少ない。片手に数える程。
斜陽の貴族の家に仕え続けようという奇特な人間はそうそういない。
それでもクシェルは付いてくれている。
きっとこれからもそうだろう、という信頼がある。
こんな不出来な主だけれど。
祖父が、顎髭を撫でながら口を開く。
「……特にクシェルは、我が家にはもったいなさ過ぎる。
お前に良く付いてくれているが、あの能力はお前には。
私の方でも探しておくが、そうだな」
勿体ない。
急速に心の奥底が冷えていった。
勿体ない。もったい、ない?
「なるべく早くに、良い主か、或いは職に斡旋しなくては」
上の者として、下の者の世話をするのは当然だ。
如何に家族のような仲の良さがあれども。
それは貴族として、当然の行いだ。
――そして此処にいるのは、祖父と孫娘であり。
ディア家の現当主と元次期当主、或いは婿を迎え入れるべく育つべきだった令嬢である。

「分かりましたわ、お祖父様!
わたくしも、そのように心構えておきますわ!」

「貴族としての生き方以外にも、何かわたくし一人でも生きられる事を模索いたしますわね!」
祖父の手が優しく頭を撫でる。
一方で、少女は思った。思ってしまった。
当たり前のように彼は傍にいると思っていた。
事実、彼はそのようにしてくれただろう。
だが敬愛する祖父が、”勿体ない”のだと言った。
――彼の未来を、優先したのだと、思ってしまった。
それが当たり前だと思いながらも、少女は胸が痛くなる。
祖父に愛されている。間違いない。
けれど優先されたのは、貴族としての矜持と責任である。
或いは彼の未来。
だから少女は学んでしまった。
すでにこの頃、地に落ちていた自己肯定感と、何もできないが故の膨らみ続けた自己否定。
己を愛する祖父ですら、そのように言うなれば。
それが正しい。
だが、それが辛い。
けれど、祖父が言うならば、それが正しい。
それが、正しい。
どれだけ共にいる存在であろうとも、己には勿体なくて。
貴族としての努めも果たせないような、令嬢としての価値のないような己は。
きっとひとりでいるべきで。
ひとつ、祖父が違えたとするならば。
孫娘へかけた、この言葉だったのだろう。
それは孫娘の前向きさや、不屈の精神を見ての言葉でもあったのだろうけど。