RECORD
Eno.138 音取りミルヴェンディーの記録
記録-顔のない料理人
「僕? 僕はしがない料理人さ」
「……ごめんね。そうとしか言えないんだ」
「僕だって、僕の正体に気が付いたのは500年……
いや、600年は前の話かな」
「満月の夜に、狼になった」
「…………」
「はは。不思議そうな顔をしているね。お約束みたいな顔だ」
「そう、それでおしまい」
「僕は狼になった。現し身を持たずにただ彷徨っていただけの僕がね」
「なんてことだ──僕は嘆いたよ。それなりに嘆いた」
「まぁ、それだけなんだけどね」
「この通り、何事もなく料理人を続けているよ。
平々凡々。なんの力もなく、ただ君たちの腹を満たすだけの『神秘』さ」
「他の同族たちは違うんだろう?」
「『憑かれて』いる」
「真祖の加護を信じる者、人を憎む者、血の誘惑に駆られる者」
「聞いているよ。様々だ」
「君たち風に言えば個体差、というものだろうね」
「彼らはそうだな──
なにか、『使命』のようなものを感じているのかもしれない」
「僕も一度だけ、そう一度だけ」
「狼になったあの日に、感じたことがある」
「『間違っている』」
「……不思議そうな顔をしているね。うん。今度は賢そうな顔だ」
「獣が道理を知ってはいけない」
「僕たちは1000年だって忘れられないんだ。君たちと違ってね」
真祖とは、そういうものだよ。
分かったかい? お嬢さん。
「……ごめんね。そうとしか言えないんだ」
「僕だって、僕の正体に気が付いたのは500年……
いや、600年は前の話かな」
「満月の夜に、狼になった」
「…………」
「はは。不思議そうな顔をしているね。お約束みたいな顔だ」
「そう、それでおしまい」
「僕は狼になった。現し身を持たずにただ彷徨っていただけの僕がね」
「なんてことだ──僕は嘆いたよ。それなりに嘆いた」
「まぁ、それだけなんだけどね」
「この通り、何事もなく料理人を続けているよ。
平々凡々。なんの力もなく、ただ君たちの腹を満たすだけの『神秘』さ」
「他の同族たちは違うんだろう?」
「『憑かれて』いる」
「真祖の加護を信じる者、人を憎む者、血の誘惑に駆られる者」
「聞いているよ。様々だ」
「君たち風に言えば個体差、というものだろうね」
「彼らはそうだな──
なにか、『使命』のようなものを感じているのかもしれない」
「僕も一度だけ、そう一度だけ」
「狼になったあの日に、感じたことがある」
「『間違っている』」
「……不思議そうな顔をしているね。うん。今度は賢そうな顔だ」
「獣が道理を知ってはいけない」
「僕たちは1000年だって忘れられないんだ。君たちと違ってね」
真祖とは、そういうものだよ。
分かったかい? お嬢さん。