RECORD

Eno.220 モルドの記録

お嬢様をやめた女の子

そして少女は打ち明ける。
一人で抱え込んでいた、この屋敷でのお嬢様の役割。

うつむいた視界に、膝に乗せた手が震えているのが映る。
話し終えて、少女の勇気は、そこで尽きてしまっていた。

顔を上げられない。隣の男の顔を見られない。
嫌悪。軽蔑。拒絶。
抑えていた恐怖が首をもたげ、少女はぎゅっと、目を閉じた。


暗闇のなか、ひとつの熱。
震える手に、布越しの少し冷たい温度が触れる。

目を開く。
白い手袋で包まれた男の手が、自身の手に重ねられている。
ぽたり。水の落ちる音に、少女は顔を上げる。隣を向く。

ぽろぽろと涙をこぼす、幼馴染の顔がそこにあった。
気付けなくてごめんね、何も知らなかった男の言葉。
けれどそんなこと、少女にはもう、どうでもいい。

ずっと隣にあった、安らげる体温は。
全てを打ち明けてもなお、隣にある。きっとこの先も、ずっと。

それがわかったから。


男の胸のなか、少女は涙をひとつ、ふたつ、とめどなく。
お嬢様のふるまいの下に隠していた感情を、ようやく吐き出す。
涙に流された痛みを、男はただ、静かに受け止め続けていた。


そして少女は顔を上げる。
泣き腫らした目でも、前を向ける。
背に回された腕の、冷たい体温が勇気をくれるから。

少女はもう、大丈夫だった。