RECORD

Eno.50 Liber·O·Igreedの記録

「………誰も君の幸せを奪いたくはないのさ」


「誰もね」



「僕も言わなかったのは悪かった。
 けど、君だって言ってないことがある。
 そうだろ?」



 ミカゼは、堰を切ったように泣いている。
 返事だってロクに返ってこない。
 

「僕は魔導クローンなんだ。いつかは全身が魔力石になってしまう。
 遅かれ早かれ。それが分からない君じゃないだろ?」


「以前の君なら……もっと話が通じたと思うんだけどなぁ」



 雪が遠くの都市の光を照り返して、やけに赤い空を眺める。
 日は暮れて、夜の帳が下りる。なのにいつまでも夕方の様に明るかった。

「ああ」



 嗚咽を溢しながら、ようやく声を出した。

「ああ、そうだな……
 変わったのは、俺かもしれない」



「アリィー……」



 凍った地面に座りながら次の言葉が続くのを待った。

「愛してたんだ」


「けど、アリィーは長く生きられなくて」


「死んだんだ」


「俺の腕の中で」


「死なんて慣れた思ってた」


「なのに、苦しかったんだ」


「アリィーが死んだ時」


「俺は、泣くことしか出来なかった」



「…………」


 ミカゼを見る。ウッドカットのリーダーとしてクローンを指揮する純人間はそこにはなくて。ただの、愛した人を失った友人が居るだけだった。

「それなのに、お前まで……」



「……僕の慢性症状は、比較的進行がゆっくりだ。
 多分、聴劣化の魔力石の特性の一つなのかもな」


「その証拠に、抑制剤を打たず3ヶ月経ってもまだこれだけしか進んでない。
 すぐには死なないって」



 ただ、部位が首だから。進行具合によっては全身が石になる前に、首の動脈や気管に影響して命に関わる事は間違いない。
 それは言えなかった。
 これ以上友人の心を崩したくなかった。

 気休めの言葉を紡いで、今だ春の遠い雪の中。ミカゼが落ち着くまで僕らは外に居て。
 部屋に戻った時、僕らはすっかり雪塗れだった。