RECORD

Eno.367 フィリア・バルナルスの記録

『天津風 Ⅴ』

人が群れることには意味がある。
生活する上での役割分担は勿論のこと、群れることで巨大化した生物、通称モンスターに己の生息圏を示し彼らの危害から逃れられる目的もあった。
モンスターの多くは殆ど栄養にならない人間を好んで捕食することは少ないが、目についた生物に無差別に襲い掛かる獰猛さを持っている。
人は群れることで、人の生息圏を彼らに示してきた。
そうすることでモンスターは人の住処を本能的に理解し、村や街に入ってくることは少なくなった。
彼らにとって、人の生息圏はロクに食べる価値もない獲物が牙を向いて群れで襲い掛かってくる、何の益にもならない場所だ。
故に人口を減らすことでモンスターの被害のリスクが増えるこの世界で、殺人は大罪だと指定する場所が多い。
だから子がいくら理想の才能を持たずに生まれてきたとしても、親は10歳までは、あるいは独り立ちできるまでは育てる義務がある。
こちらも守らなければ重い処罰を受ける法である。


ただし、この場所ダオドラは、力こそ全ての世界。



「―― 可哀そうに。親に捨てられたのだな」




野性が発現し、将来性がない場合は子を捨てることを黙認している場所だ。


「…………え? 捨て……?」


「多いんだ、こんな場所だからな。お前、野性カルテは答えられるか?」


「……R1 W-Rabbit」


「なるほど。ウサギでランク1の共鳴型か。野性カルテを聞いたのはいつだ?」


「えっと……昨日……」


「そうか。ならば、間違いない」


「お前は親に捨てられた。期待された子ではなかったからな」


「……なんで……」


「……なん……、でぇ……?」




捨てられたウサギは、それでも受け入れることができなかった。
つい昨日まで大切に育てられてきたのだ。確かに愛されてきたのだ。悪意を疑えるはずなどなかった。
昨日まで、悪意などなかったのだから。

「カミールお姉ちゃんは、嬉しいって言ってくれたのに……」


「生んでくれたお母さんやお父さんが喜ばないはずがないって、言ってくれたのに……」


「カミールお姉ちゃんは、捨てられなかったのに……!」


「何で! なんで、なんで私だけ! お姉ちゃんは変わらず愛されて!
 お姉ちゃんは強く生まれたから!? お姉ちゃんは才能があったから!?」




だから、


「ほんとは……私に才能がなくて、安心したの……? それとも、要らない子だって分かったから、あんなに喜んだの……?」


「…………」


「よっぽど、姉のことが好きだったのだな」





タルタニア
「私はタルタニア・イベリアル。私はここで、捨てられた子供の保護を行っている者だ」


タルタニア
「行く宛てがないのであれば来るがよい。
 少なくとも、弱者として虐げられ見向きもされぬ存在から、一人前の大人として独り立ちできるように鍛えてやる」



タルタニアと名乗った女性はどう見ても少女の身なりで、身長も135cm程度しかない人間だった。