RECORD
Eno.321 ロトリアシア・メイラースの記録
悲鳴、鳴き声、断末魔。
嫌いなんだよな。うるさいから。
静かに消えてくれる奴は、それだけで他よりマシ。
なのに、さ?
夢の中だと、一発刺したくらいじゃ誰も静かになってくれないから。
うるさそうな奴のときは、先に首をやっておくくらいのことを覚えた。
それでも喋れるような、自分の状況がわかってないバカもいるけど。
まあ、そういう奴のときは、顔を狙ってやれば、それなりに静かになる。
今もそうした。
もう、誰だかわかんないな。
これで、もう何人目だったっけ。
せっかくだから、数えとけばよかったな。
------------------------
ピースィレナイア・メイラース。メイラース家の長男。
私、ロトリアシア・メイラースの兄、三人きょうだいの一番上。
お母さんに似た私の黄色い髪と違って、お父さんそっくりのピンク色の髪。
髪型に頓着がないみたいだけど、私はあの髪、けっこう好き。
そんな、私の大好きなお兄ちゃんの話。
お兄ちゃんは、滅多に家に帰ってこない。
帰ってくることがあっても、私達には会っていかない。
お父さんとお母さんにだけなにか伝えて、またどこかに行っちゃうんだって。
最後に話したの、何年前だったかな。
家に来たのを見て、走って追いかけてひっ捕まえて声かけて。
なんて話せばいいのかわかんなくて、最近なにしてんの、とか無難なこと言っちゃって。
そんなんじゃ、あちこちふらついてるだけだよ、なんて返事しか来ないのも当然で。
どうしていいかわかんないまま、逃げられちゃった。
あのときのお兄ちゃん、私を見て嬉しそうにしたあと、悲しそうにしてた。
何考えてたかなんて、すぐにわかった。
私が元気で嬉しくて、自分が傍に居てやれないとか思って、悲しんだんでしょ。
居てもらっちゃ困る理由なんて、どこにもないのに。
私はいま、ずっと夢に見てたお菓子屋さんになるために勉強をしてる。
学校も通ってるし、自分でも勉強してる。練習だって。
そんな私の傍にお兄ちゃんがいたら、悪い噂になると思ってるんだろうな。
確かに、お兄ちゃんはかっこいいけど表情が薄いから、私と一緒にいたら怖い人みたいに見えるかもしれないし、
逆にお兄ちゃんの傍に私がいたら彼女みたいに見えちゃうかもしれない。そこまで似てないし。
お兄ちゃんは"何の仕事をしてるかわからない人"だから、噂はたてられ放題だし──
それは、ね? 私だって言われたくないよ。いくら事実だって、
「お前の兄は人殺しだ」なんて。
あれも何年前だっけな。
新聞にも載ってないから、詳しい日付忘れちゃったんだよな。
私が何歳のとき、っていう思い出し方ならできるけど、まあ、まあ。
なんでそうなったのかは忘れたけど。忘れたいけど。
私が、悪い人たち数人に襲われたことがあって。
それだけなら、夜に暗いところを通った私が悪いよね、って話なんだけど。
その人達は、私を逃がしてくれないみたいで……
後から知ったんだけど、あれはそういう『悪い人たち』だったみたい。
といっても、大きなマフィアとかじゃなかったみたいだけどね。
まあ、そこからは結構普通。たまに、よくある話。
腕とか掴まれて、もっとひどいこともされそうになって。攫うつもりだったみたいだけど。
私が悲鳴を上げて、それを近くにいたお兄ちゃんが聞きつけて、助けに来て。
悪い人たちは武器とか……ふしぎな力? とかを使ってお兄ちゃんを傷つけて。
それから、お兄ちゃんは……
そいつらから武器を奪って、全員殺しちゃった。
そうまでする必要があったのかはわからないけど、まあ、その人達はお兄ちゃんを殺す気だったみたいだし。
少なくとも、傷つけないように反撃して逃げる、みたいなのは無理だったと思う。
むしろ、最終的には私は無傷で、お兄ちゃんも生きてたわけだし……
怖い、みたいなのはなかったかな。
でも、私の無事を確認したお兄ちゃんは、すっごく息が荒かった。
当然だと思う。あれは……何人いたんだっけ? 4人かな。
大立ち回り、ってやつだったから、息切れを……じゃなくて。その全員を二度と起きられなくしたんだから。
後悔というか、恐怖というか、なんだろう。実際疲れもしたんだろうな。
奪ったナイフを落として、血まみれの自分を見て。
震えて、気を失っちゃって。
私が運んで帰って、きれいにして着替えさせたあと。
何時間かして起きたお兄ちゃんは、最初は動揺してた。
最初は変な夢を見たとか言ってたけど、たぶん、手に血の匂いが残ってたんだろうな。
思い出したみたいに、お前が無事でよかった、って言って、それから何も言わなくなっちゃった。
まあ、何も言わなくなったのは、斬られた傷から毒が入ったから苦しくて、っていうのも理由だったらしいけど。
それをお医者さん(口の固いひとだよ)が薬で和らげたあとも、あんまり喋ってくれなかった。
たぶん、あのときからもう、私とは距離を置くつもりだったんだろうな。
自分が人を殺したからって、私や家族への影響ばっかり考える。
自分が捕まってどうなるかとかじゃなくて、残される私達のことを想ってる。
お兄ちゃんは、そういう人。
あのあと、そう日が経たないうちに、お兄ちゃんはとあるマフィアに入ったらしい。お父さんを殴って聞き出した。
あのときの悪い人たちがそのファミリーと揉めてて、私が襲われてお兄ちゃんが怪我した時点でお兄ちゃんがファミリーの一員だったことにすれば、表立って戦える、とかなんとか。
まあ、実際にはここを縄張りにしたいのと、一応はその連中とやり合ったお兄ちゃんを護る、ってのの両立のためなんだろうな、っていうことは、私にもわかるけど。
揉めたいだけなら、いくらでもでっちあげるものでしょ、普通は。
なんにせよ、それからお兄ちゃんは家にほとんど帰ってこなくなっちゃった。
お兄ちゃんは、きっと、私を護るためとはいえ、人を殺したっていう事実が嫌なんだと思う。
実際、それは罪に問われるようなことだし……相手が悪くても。
でも、だからって、それだけを理由に私から離れる必要もないのに。
あの事件は結局マフィアの絡んだ揉め事だから、もみ消されて証拠は少ない。
噂なんか噂に過ぎないって言えば、どうにでもなる。
私は完全に無事だし、お兄ちゃんだって後遺症はないはず。
まあ、お兄ちゃんは私の夢に関わっちゃいけないとか思ってるんだと思うよ?
たとえば、血に汚れた手で夢に触れたくないー、とか!
そんなの私が気にするわけない。大好きなお兄ちゃんと一緒にいられるほうが嬉しい。
そうだよ。
そんなの、気にするわけない。
だって、
だって!
私のほうが、もーっとたくさん、殺してるっていうのに!
たった4人くらいで、悩まないでよ。
どうせなら、もっとたくさん。
一緒に、さ?
------------------------
最初は、正当防衛だった。
といっても、夢の中でだけど。
ある日の夢で、私は襲われた。
複数とかじゃなくて、一人に。
その辺の道とかじゃなくて……どこだっけ? 誰かの家の中?
あ、そう、襲うって言っても変な意味じゃなくて、物理!
なんか急に殴りかかられたの! 最悪!
すっごく嫌だったから、めちゃくちゃ反撃してやった。
そのうち、相手は動かなくなった。
その3日後だったかな。
死んだって噂を聞いた人が、夢に出てきた人と同じだって気付いたの。
次は……ああ、これもいつだったかは忘れたけど。
また夢に出てきた人がいて。
嫌いな人だったから、何もしてこなかったけど、刺した。
夢でくらいは好きにしていいよね、って思って。
二度と会わなくなっちゃった。
三人目のときだったかな、楽しい、って思ったの。
夢の中だと、感覚は薄いけど……
殴ったら。刺したら。斬ったら。叩いたら──壊れるのが。
そうするうちに、動かなくなるのが。
それをしているのが、自分だということが。
自分が、そうできるということが!
そこからは、止まらなかった。止められなかった。止める気もなかった。
いや、一応理性はあったよ?
誰だって殺そうとしたわけじゃない。
夢に出た人が、嫌な人だったり、悪そうな人だったり、裏路地に居る怪しい人だったりしたとき。
そういうときだけ、遊んでた。
たぶん、私が狙われて、お兄ちゃんが怪我をしたあの日も……
私がやってるってバレたから、狙われたんだろうな、って思う。
あの日の少し前、いつもみたいに、裏路地に居る人が夢に出たからさ。
今日は叩いてみようかな、って、ほら、あの、あれ。ハンマー?
そういうやつを持ってさ。夢だったら、道具が手元にあっても変じゃないし。
それで頭から順番に潰してたら、もう一人いる事に気がついて。
逃げちゃう前にこっちもやろー、ってハンマーを振り下ろしたら、その人、消えてて。
なんでかわかんないけど、すぐ理解できた。
この人は『夢から醒めたんだ』って。
同時に気付いた。
ここは私の夢じゃなくて、今の人の夢。
私は他人の夢に入ってたんだ、って!
そこからはすっごく楽しかった。
本を読んで、話を聞いて、調べて、
自分が夢魔だっていうことを知った。
一割とちょっとしかないけど、力が使えるならそれでいい。
遺伝してる血だから、お兄ちゃんたちもそうだ、ってこともわかった。
お兄ちゃんも、こうやって遊んでるんだと思った。
遊んでないって知ったとき、もったいないな、って思った。
それで、まあ、そのうち。
あのとき逃がした人……夢から醒めたあの人が、誰かに教えたんだろうな。
私が、夢の外で襲われた、ってわけ。
武器がなかったから、さすがに怖かった。
同時に4人は初めてだったから、さすがに自信がなかった。
助けに来てくれたお兄ちゃんは、誰よりもかっこよかった。
だから、お兄ちゃん。
お兄ちゃんは、私と一緒に居てもいいんだよ。
それが伝えたくて、お兄ちゃんのことばっかり考えてたら──
お兄ちゃんの夢の中に入れちゃった!
びっくりしたけど、幸せだった。久しぶりにお兄ちゃんと話せたから!
お兄ちゃんを驚かせて起こしたくなかったから夢に合わせたけど、
お兄ちゃん、私がまだずっとお菓子屋さんを夢見てると思ってるんだね。
もちろん、私はその夢を追ってるよ。
合ってるよ。お兄ちゃんの見た夢のとおり、みんなでお店をやって、
いろんなお客さんにお菓子を作ってあげて。
たのしい常連さんとかがいたら、ずっと幸せかも!
でも、私が今"見てる夢"、これじゃないよ?
私が見てるのは、人の夢ばっかりだよ。
そこでずっと遊んでる。
夢の外ではお菓子屋さんになりたいけど、夢のなかだと……
ずっと、別の遊びを、してるんだよ。
知らないみたいだから、今度ちゃんと教えてあげるね。
ねえ、お兄ちゃん。
私達は、大丈夫だからさ。
お兄ちゃんの手が汚れてても。お兄ちゃんが私を護ろうとしてても、
そのために離れることを選んでくれてても。
ちゃんと楽しくやれてるからさ。
だから。
お互い大事にしてるって──わかってくれてるなら、一緒にやっていこ?
私は、こういう生活ができれば幸せだなと思ってたけど、
お兄ちゃんと会えないみたいな想像はしてなかったんだよ?
でも。
ここはあくまで夢だから、この夢から醒めたら、私達はまた離れ離れなんだよね。
じゃあ──
……ちゃんと身体に気をつけて、怪我もしないようにして。
風邪も引かないようにして、怪しい話には乗らない。
あと、女の人にも気をつけてね。お兄ちゃんは素直だから、騙されちゃう。
また会うまで、元気でいてね。
大丈夫。会えない間も、心配はしないで。
私は、こっちでも、楽しくやってるから。
ああ、そうそう。
お兄ちゃんが血で汚れちゃったのは、私があのとき一人逃がしたからだよね。
そうじゃなかったら、夢の外で私が狙われることは、なかった。
安心して。
もう二度と、私を夢で見た奴のこと、逃がしてないから。
お兄ちゃんのことも、逃がさないからね。
兄のこと
悲鳴、鳴き声、断末魔。
嫌いなんだよな。うるさいから。
静かに消えてくれる奴は、それだけで他よりマシ。
なのに、さ?
夢の中だと、一発刺したくらいじゃ誰も静かになってくれないから。
うるさそうな奴のときは、先に首をやっておくくらいのことを覚えた。
それでも喋れるような、自分の状況がわかってないバカもいるけど。
まあ、そういう奴のときは、顔を狙ってやれば、それなりに静かになる。
今もそうした。
もう、誰だかわかんないな。
これで、もう何人目だったっけ。
せっかくだから、数えとけばよかったな。
------------------------
ピースィレナイア・メイラース。メイラース家の長男。
私、ロトリアシア・メイラースの兄、三人きょうだいの一番上。
お母さんに似た私の黄色い髪と違って、お父さんそっくりのピンク色の髪。
髪型に頓着がないみたいだけど、私はあの髪、けっこう好き。
そんな、私の大好きなお兄ちゃんの話。
お兄ちゃんは、滅多に家に帰ってこない。
帰ってくることがあっても、私達には会っていかない。
お父さんとお母さんにだけなにか伝えて、またどこかに行っちゃうんだって。
最後に話したの、何年前だったかな。
家に来たのを見て、走って追いかけてひっ捕まえて声かけて。
なんて話せばいいのかわかんなくて、最近なにしてんの、とか無難なこと言っちゃって。
そんなんじゃ、あちこちふらついてるだけだよ、なんて返事しか来ないのも当然で。
どうしていいかわかんないまま、逃げられちゃった。
あのときのお兄ちゃん、私を見て嬉しそうにしたあと、悲しそうにしてた。
何考えてたかなんて、すぐにわかった。
私が元気で嬉しくて、自分が傍に居てやれないとか思って、悲しんだんでしょ。
居てもらっちゃ困る理由なんて、どこにもないのに。
私はいま、ずっと夢に見てたお菓子屋さんになるために勉強をしてる。
学校も通ってるし、自分でも勉強してる。練習だって。
そんな私の傍にお兄ちゃんがいたら、悪い噂になると思ってるんだろうな。
確かに、お兄ちゃんはかっこいいけど表情が薄いから、私と一緒にいたら怖い人みたいに見えるかもしれないし、
逆にお兄ちゃんの傍に私がいたら彼女みたいに見えちゃうかもしれない。そこまで似てないし。
お兄ちゃんは"何の仕事をしてるかわからない人"だから、噂はたてられ放題だし──
それは、ね? 私だって言われたくないよ。いくら事実だって、
「お前の兄は人殺しだ」なんて。
あれも何年前だっけな。
新聞にも載ってないから、詳しい日付忘れちゃったんだよな。
私が何歳のとき、っていう思い出し方ならできるけど、まあ、まあ。
なんでそうなったのかは忘れたけど。忘れたいけど。
私が、悪い人たち数人に襲われたことがあって。
それだけなら、夜に暗いところを通った私が悪いよね、って話なんだけど。
その人達は、私を逃がしてくれないみたいで……
後から知ったんだけど、あれはそういう『悪い人たち』だったみたい。
といっても、大きなマフィアとかじゃなかったみたいだけどね。
まあ、そこからは結構普通。たまに、よくある話。
腕とか掴まれて、もっとひどいこともされそうになって。攫うつもりだったみたいだけど。
私が悲鳴を上げて、それを近くにいたお兄ちゃんが聞きつけて、助けに来て。
悪い人たちは武器とか……ふしぎな力? とかを使ってお兄ちゃんを傷つけて。
それから、お兄ちゃんは……
そいつらから武器を奪って、全員殺しちゃった。
そうまでする必要があったのかはわからないけど、まあ、その人達はお兄ちゃんを殺す気だったみたいだし。
少なくとも、傷つけないように反撃して逃げる、みたいなのは無理だったと思う。
むしろ、最終的には私は無傷で、お兄ちゃんも生きてたわけだし……
怖い、みたいなのはなかったかな。
でも、私の無事を確認したお兄ちゃんは、すっごく息が荒かった。
当然だと思う。あれは……何人いたんだっけ? 4人かな。
大立ち回り、ってやつだったから、息切れを……じゃなくて。その全員を二度と起きられなくしたんだから。
後悔というか、恐怖というか、なんだろう。実際疲れもしたんだろうな。
奪ったナイフを落として、血まみれの自分を見て。
震えて、気を失っちゃって。
私が運んで帰って、きれいにして着替えさせたあと。
何時間かして起きたお兄ちゃんは、最初は動揺してた。
最初は変な夢を見たとか言ってたけど、たぶん、手に血の匂いが残ってたんだろうな。
思い出したみたいに、お前が無事でよかった、って言って、それから何も言わなくなっちゃった。
まあ、何も言わなくなったのは、斬られた傷から毒が入ったから苦しくて、っていうのも理由だったらしいけど。
それをお医者さん(口の固いひとだよ)が薬で和らげたあとも、あんまり喋ってくれなかった。
たぶん、あのときからもう、私とは距離を置くつもりだったんだろうな。
自分が人を殺したからって、私や家族への影響ばっかり考える。
自分が捕まってどうなるかとかじゃなくて、残される私達のことを想ってる。
お兄ちゃんは、そういう人。
あのあと、そう日が経たないうちに、お兄ちゃんはとあるマフィアに入ったらしい。お父さんを殴って聞き出した。
あのときの悪い人たちがそのファミリーと揉めてて、私が襲われてお兄ちゃんが怪我した時点でお兄ちゃんがファミリーの一員だったことにすれば、表立って戦える、とかなんとか。
まあ、実際にはここを縄張りにしたいのと、一応はその連中とやり合ったお兄ちゃんを護る、ってのの両立のためなんだろうな、っていうことは、私にもわかるけど。
揉めたいだけなら、いくらでもでっちあげるものでしょ、普通は。
なんにせよ、それからお兄ちゃんは家にほとんど帰ってこなくなっちゃった。
お兄ちゃんは、きっと、私を護るためとはいえ、人を殺したっていう事実が嫌なんだと思う。
実際、それは罪に問われるようなことだし……相手が悪くても。
でも、だからって、それだけを理由に私から離れる必要もないのに。
あの事件は結局マフィアの絡んだ揉め事だから、もみ消されて証拠は少ない。
噂なんか噂に過ぎないって言えば、どうにでもなる。
私は完全に無事だし、お兄ちゃんだって後遺症はないはず。
まあ、お兄ちゃんは私の夢に関わっちゃいけないとか思ってるんだと思うよ?
たとえば、血に汚れた手で夢に触れたくないー、とか!
そんなの私が気にするわけない。大好きなお兄ちゃんと一緒にいられるほうが嬉しい。
そうだよ。
そんなの、気にするわけない。
だって、
だって!
私のほうが、もーっとたくさん、殺してるっていうのに!
たった4人くらいで、悩まないでよ。
どうせなら、もっとたくさん。
一緒に、さ?
------------------------
最初は、正当防衛だった。
といっても、夢の中でだけど。
ある日の夢で、私は襲われた。
複数とかじゃなくて、一人に。
その辺の道とかじゃなくて……どこだっけ? 誰かの家の中?
あ、そう、襲うって言っても変な意味じゃなくて、物理!
なんか急に殴りかかられたの! 最悪!
すっごく嫌だったから、めちゃくちゃ反撃してやった。
そのうち、相手は動かなくなった。
その3日後だったかな。
死んだって噂を聞いた人が、夢に出てきた人と同じだって気付いたの。
次は……ああ、これもいつだったかは忘れたけど。
また夢に出てきた人がいて。
嫌いな人だったから、何もしてこなかったけど、刺した。
夢でくらいは好きにしていいよね、って思って。
二度と会わなくなっちゃった。
三人目のときだったかな、楽しい、って思ったの。
夢の中だと、感覚は薄いけど……
殴ったら。刺したら。斬ったら。叩いたら──壊れるのが。
そうするうちに、動かなくなるのが。
それをしているのが、自分だということが。
自分が、そうできるということが!
そこからは、止まらなかった。止められなかった。止める気もなかった。
いや、一応理性はあったよ?
誰だって殺そうとしたわけじゃない。
夢に出た人が、嫌な人だったり、悪そうな人だったり、裏路地に居る怪しい人だったりしたとき。
そういうときだけ、遊んでた。
たぶん、私が狙われて、お兄ちゃんが怪我をしたあの日も……
私がやってるってバレたから、狙われたんだろうな、って思う。
あの日の少し前、いつもみたいに、裏路地に居る人が夢に出たからさ。
今日は叩いてみようかな、って、ほら、あの、あれ。ハンマー?
そういうやつを持ってさ。夢だったら、道具が手元にあっても変じゃないし。
それで頭から順番に潰してたら、もう一人いる事に気がついて。
逃げちゃう前にこっちもやろー、ってハンマーを振り下ろしたら、その人、消えてて。
なんでかわかんないけど、すぐ理解できた。
この人は『夢から醒めたんだ』って。
同時に気付いた。
ここは私の夢じゃなくて、今の人の夢。
私は他人の夢に入ってたんだ、って!
そこからはすっごく楽しかった。
本を読んで、話を聞いて、調べて、
自分が夢魔だっていうことを知った。
一割とちょっとしかないけど、力が使えるならそれでいい。
遺伝してる血だから、お兄ちゃんたちもそうだ、ってこともわかった。
お兄ちゃんも、こうやって遊んでるんだと思った。
遊んでないって知ったとき、もったいないな、って思った。
それで、まあ、そのうち。
あのとき逃がした人……夢から醒めたあの人が、誰かに教えたんだろうな。
私が、夢の外で襲われた、ってわけ。
武器がなかったから、さすがに怖かった。
同時に4人は初めてだったから、さすがに自信がなかった。
助けに来てくれたお兄ちゃんは、誰よりもかっこよかった。
だから、お兄ちゃん。
お兄ちゃんは、私と一緒に居てもいいんだよ。
それが伝えたくて、お兄ちゃんのことばっかり考えてたら──
お兄ちゃんの夢の中に入れちゃった!
びっくりしたけど、幸せだった。久しぶりにお兄ちゃんと話せたから!
お兄ちゃんを驚かせて起こしたくなかったから夢に合わせたけど、
お兄ちゃん、私がまだずっとお菓子屋さんを夢見てると思ってるんだね。
もちろん、私はその夢を追ってるよ。
合ってるよ。お兄ちゃんの見た夢のとおり、みんなでお店をやって、
いろんなお客さんにお菓子を作ってあげて。
たのしい常連さんとかがいたら、ずっと幸せかも!
でも、私が今"見てる夢"、これじゃないよ?
私が見てるのは、人の夢ばっかりだよ。
そこでずっと遊んでる。
夢の外ではお菓子屋さんになりたいけど、夢のなかだと……
ずっと、別の遊びを、してるんだよ。
知らないみたいだから、今度ちゃんと教えてあげるね。
ねえ、お兄ちゃん。
私達は、大丈夫だからさ。
お兄ちゃんの手が汚れてても。お兄ちゃんが私を護ろうとしてても、
そのために離れることを選んでくれてても。
ちゃんと楽しくやれてるからさ。
だから。
お互い大事にしてるって──わかってくれてるなら、一緒にやっていこ?
私は、こういう生活ができれば幸せだなと思ってたけど、
お兄ちゃんと会えないみたいな想像はしてなかったんだよ?
でも。
ここはあくまで夢だから、この夢から醒めたら、私達はまた離れ離れなんだよね。
じゃあ──
……ちゃんと身体に気をつけて、怪我もしないようにして。
風邪も引かないようにして、怪しい話には乗らない。
あと、女の人にも気をつけてね。お兄ちゃんは素直だから、騙されちゃう。
また会うまで、元気でいてね。
大丈夫。会えない間も、心配はしないで。
私は、こっちでも、楽しくやってるから。
ああ、そうそう。
お兄ちゃんが血で汚れちゃったのは、私があのとき一人逃がしたからだよね。
そうじゃなかったら、夢の外で私が狙われることは、なかった。
安心して。
もう二度と、私を夢で見た奴のこと、逃がしてないから。
お兄ちゃんのことも、逃がさないからね。