RECORD
Eno.58 ミオリッツァの記録
暗殺者の短刀
左の脇腹から面白いくらいにすっと臓腑まで貫いた、子供の持った曲がり短刀。
その世界は戦と苦しみと貧しさに満ちていて、それでもなお神を信じて疑わずにいた。
子供は、その世界の教会が儂へ送り込んだ刺客だった。儂の存在は異端とみなされたようだった。
小さく、華奢で、幼く、力のない子供。
その目に憎悪の光を見たとき、罵りの言葉をその口から聞いた時、あれは、どれほど哀しかったろうか。
「その怒りは汝のものか」
「この怒りは私のものだ」
「その言葉は汝のものか」
「この言葉は私のものだ」
「その短刀は汝のものか」
「この短刀は神のものだ」
曰く、神罰であると。
「この世界の神は、子に殺しの罪を与えるのか」
曰く、神罰の代行者に隔たりはないと。
「この世界の神は、子にその責任を与えるのか」
曰く、神の前では皆平等であると。
「この世界の神は、皆に等しく罪を与えるのか」
曰く、産まれ持つ罪は神にしか祓えぬと。
そうして、膝をついて血を流す儂に子供は言った。
「私の父は律に背いた。その罪は、私が背負わなければならない」
「……そんなにも哀しいことを、子供が言うでない」
思わず、言った。
「産まれながらの罪などあってはならぬ。生命の誕生は喜びと共にあるべきなのだから。
子が罪を背負ってはならぬ。罪を背負うべきは子の責任を負う、大人にあるのだから。
人の子は苦しむために産まれてきたのではない。生命は幸せに生きるべきなのだから。
両手は血で染めるためにあるのではない。それは未来へと藻掻くためにあるのだから。
両足は行軍のためにあるのではない。それは光の指す人生を歩むためにあるのだから。」
だからこそ、
「この短刀は頂戴する。そして、儂はお前を赦そう、人の子よ」
立ち上がり、短刀を引き抜く。
痛みはあるが、哀しみほどではない。
すべてを救うことなどもはやできないが、それでも、
救わなくては。
その世界は戦と苦しみと貧しさに満ちていて、それでもなお神を信じて疑わずにいた。
子供は、その世界の教会が儂へ送り込んだ刺客だった。儂の存在は異端とみなされたようだった。
小さく、華奢で、幼く、力のない子供。
その目に憎悪の光を見たとき、罵りの言葉をその口から聞いた時、あれは、どれほど哀しかったろうか。
「その怒りは汝のものか」
「この怒りは私のものだ」
「その言葉は汝のものか」
「この言葉は私のものだ」
「その短刀は汝のものか」
「この短刀は神のものだ」
曰く、神罰であると。
「この世界の神は、子に殺しの罪を与えるのか」
曰く、神罰の代行者に隔たりはないと。
「この世界の神は、子にその責任を与えるのか」
曰く、神の前では皆平等であると。
「この世界の神は、皆に等しく罪を与えるのか」
曰く、産まれ持つ罪は神にしか祓えぬと。
そうして、膝をついて血を流す儂に子供は言った。
「私の父は律に背いた。その罪は、私が背負わなければならない」
「……そんなにも哀しいことを、子供が言うでない」
思わず、言った。
「産まれながらの罪などあってはならぬ。生命の誕生は喜びと共にあるべきなのだから。
子が罪を背負ってはならぬ。罪を背負うべきは子の責任を負う、大人にあるのだから。
人の子は苦しむために産まれてきたのではない。生命は幸せに生きるべきなのだから。
両手は血で染めるためにあるのではない。それは未来へと藻掻くためにあるのだから。
両足は行軍のためにあるのではない。それは光の指す人生を歩むためにあるのだから。」
だからこそ、
「この短刀は頂戴する。そして、儂はお前を赦そう、人の子よ」
立ち上がり、短刀を引き抜く。
痛みはあるが、哀しみほどではない。
すべてを救うことなどもはやできないが、それでも、
救わなくては。