RECORD

Eno.50 Liber·O·Igreedの記録

 僕ら聴劣化は、予め『耳が聞こえなくなる』と説明されている。手話を学ばされるし、識字は確実なものする。他よりも教育期間が長いらしい。
 聴神経をダメにするから従来の補聴器では意味がなく、脳に直接信号を送る高機能な補聴器が使われている。

 だから、耳が聞こえなっていくのは分かっていた。世界の音が小さくなって、やがて消えていく。僕の声すらも分からなくなって、世界から切り離されたかの様だった。

 目を伏せてしまえば、生きているのかも分からないくらいに。

 そんな状態で外に出た僕にとって、補聴器は命綱だった。コレがなければ周りが何を喋ってるのかも分からないし、事故が起きても聞こえやしない。
 知らない土地を歩くことになった僕は、真っ先に補聴器の管理に重点を置いた。

 なのに、お金を持たされなかった僕に命綱を守る手段すらなかった。電池は無くなるし、部品を悪くして聞こえにくくなるし。

 この街の風は冷たくて、ただただ苦しかった。
 外に出ないで、処分された方がマシだったかなと思えるくらいに。

 もうその頃には『劣化の中でも優秀な聴劣化』から『底辺でしかない魔導クローン』にしか思えなくなった。

 ただ、そう思ってから生きるのが楽になった。
 劣化は使えないけど、身体を売れば相応に金が入る。人に媚びへつらって明るくしていれば、施しだってもらえる。
 痛い事もあったけど、気持ちいい事もあったし。飯にも風呂にもありつける。
 割と性に合ってたんだ。

 とてもじゃないけど、面と向かってミカゼには言えなかった。
 君、そういうの嫌いだろ?