RECORD

Eno.39 ウィーウムの記録

彼女のこと


プラティナとは、旅の途中で出会った。


寂れた町の一角、廃材が詰め込まれた路地のそばで、
獣人のような子供が不安げに佇んでいた。

仮に物乞いだったとして、彼女に恵んでやる余裕は私にはない。
仮に迷子だったとして、彼女を助けてやる義理も私にはない。
けれど、なんとなく……
今となっては理由を思い出せないが、
彼女のことが気になって近付いた。
彼女は怯えた瞳でこちらを見て、縮こまって。
それでも逃げずにいてくれて。

どこにも行けず困っているのだと彼女は言い、
記憶がなく名前すらわからないと涙を流した。

私も似たようなものだと、そう思った。

私はどこにでも行ける。記憶もある。名前も……ある。
だから彼女とは似ていないはずなのだけれど。


行くあてがないのなら共に来るといい。
彼女から見て信用に足る部分などなかっただろう私の、
何の保証もない言葉に彼女は頷いてくれた。

そうして、私は彼女の"あるじ"になり、彼女は私の"しもべ"になった。
彼女がそうありたいと言ったから。


何者でもなくなってしまった私が、何者なのかわからない彼女が……
世界でたったふたりがそう思っているだけだったとしても、
一緒に居る間だけでも、何者かになれるのなら。
きっとこれで……良かったのだろう。



彼女がどうしてあの時頷いてくれたのか、私にはわからない。
彼女を可愛がることを許してくれるのも。
彼女を宝物だと言ったのを受け入れてくれた理由も。

本当は、私の方が彼女に縋っている。



──私は生きなければならない。彼女を守るために。
彼女が、私が、誰であったとしても。