RECORD

Eno.321 ロトリアシア・メイラースの記録

?のこと

 
記憶、欠けてるからってさ。
後悔することに気が付けなかったんなら、言い訳みたいじゃん、それ。



悪いと思ってるかは、別にして。
あのときは、責任取るつもりだったんだよ。全部。


偶然、夢魔が混じってるどうしで出会ってさ。
血を少しでも濃くしたかったあいつと、
子供を産んで育てたかったあたし。
利害は一致してた。

今思えば、最悪。
子供って、そういうふうに考えるものじゃないでしょ?
でも、あのときは舞い上がってたんだろうな。
恋だと思ってたし……
愛せると思ってた。

結局、ひとりしか産まなかったのは、嫌な予感がしたからかもしれない。


夢魔が四分の一……ニ割五分の、あいつ。
夢魔が三割の、あたし。
その間の子は、まあ……単純に計算すれば、三割弱ってやつじゃん。
それなら、夢魔としてやっていけるって思ったんだ。十分に。


合ってた。合ってたけど、考えが甘かった。


私は、人間じゃない。人間だけど。
夢魔三割、人間六割、それ以外一割。
そういう部分じゃなくて、寿命とか、過ごし方とか。そういうのが違うから。
気づいてなかったんだ。考えたくなかったんだ。
いくらあたしの子供でも、そのまた次に、世代を繋がなきゃいけなくなる時が来るって。


あの子が連れてきた彼氏。人間だった。
愛し合ってるの! って嬉しそうにしてて。

言い出せなかった。
これ以上薄くなったら苦しむことになるよ、って。

二人を引き離さないための、愛情だったのかな。
あたしとあいつが間違った選択をしたわけじゃないって、逃げだったのかな。
大丈夫だろ、なんていう、無責任だったのかな。


結局、止められないまま。
ピースィレナイアのときも。
ロトリアシアのときも。
アルマネイレアのときも。
ずっと、言い出せないまま。

あの子が三人で満足しなかったとき、あたしは止められたんだろうか。

無理だっただろうな。

逃げたんだもん、あたし。



アルマネイレアが物心つくより前に消えたあたしを、誰も探しはしなかった。
きっと、あいつが察してくれたんだと思う。それか、夢だったと思ったんだと思う。
押し付けて、一人で離れて。

次に顔を見たのは、あの子達が大きくなってから。

みんな元気にしてて、健やかで。
なんだろうな。暗い気持ちを脇において考えれば、孫が元気で幸せだった。
それを実感するたび、苦しめるのはあたしなんだ、と思いもした。
だから、二度と直接顔を合わせることはできなかった。


あの子は、夢の中で泣いていた。
間違っても子供に泣き顔を見せないため。
夫との難しい相談だって、夢の中でするくらい。

この涙も、あたしのせいなんだ、ってわかって……どうしたんだっけな。
死んでないけど……死ぬくらい、吐いたんだっけ。
あたしが引き離したくなくて認めた結婚は、結局二人ともを苦しめて。
もとはと言えば、あたしが何も考えてなかったから、産まれて、苦しんで。
せめてなにか伝えてれば違ったんだろうけど、
できなかった。

違う。

やらなかった。


結局、殴ってほしくて。嫌ってほしくて。恨んでほしくて。殺してほしくて。
あの子に夢で会いに行って、頭を下げた。
全部伝えた。知ってて言わなかったことも。

お母さんのせいじゃないよ、って言ってくれたけど、あたしは納得しなかった。
あの子のことを考えるなら、食い下がる意味なんてないのに。

じゃあ、って。許すことの交換条件、って。

「夢魔の力が子孫から消えるくらい薄まるまで、ずっと」
「陰からでもいいから、見守っていてあげて」

そう頼まれた。
思えば、それは……あの子から見ても、言い訳だったのかもしれない。
知らずとも、三人産んだ自分が、三人に説明しきれないことの。

あるいは、あたしが卑怯だったのかもしれない。
あたしを否定すれば、あの子自身を否定することになるから。

形だけ、かっこつけて。
もう無責任に返事したくないから、なんて言って、三日待たせた。

夢の中で、ずっと考えて……
結局、無責任な言い方だけ、引っ張り出していった。

「ずっと見守る」
「これ以上、悲しむ子を増やさない」

それが、あの子にどう感じられたかはわかんないけど。

「私のことと同じくらい、かわいがってあげてね」

って返されたのは、まあ、救いなのかも。
愛されてると思ってくれていたってことで、
愛せていたってことだから。




ずーっと考え込んでたら、あたしの夢を覗きに来たあの子に……
「いつまでも後悔ばっかしてんじゃねえ」って全力でぶん殴られてからは、
まあ……前に進むことにしたけど。




それで。
とりあえず、孫三人を見守ってるのが、今。


ピースィレナイア。
夢魔の力の中でも、寄り添う者の夢に入ることと、夢を現実に等しく受け止めることの得意な子。

それで苦しんでるのだって、知ってる。
夢を夢だと信じられない……わけじゃない、現実さえも夢かもしれないって思ってる、
夢ってものが幸せなはずだって思ってる、素直で無垢な、優しい子。
あたしが、ずっと見守るからね。


ロトリアシア。
夢魔の力の中でも、眠る誰かの夢に入ることと、夢と現実をつなげることが得意な子。

それで遊んでるのだって、知ってる。
その遊び方は、あたしも大好きだった。
きっと、三人の中でも一番あたしに似てる。
だから、こんなに道を外れさせてしまった。
幸せなのなら、あたしは止めないよ。
見守るのはあたしでも、止めるのはあたしの仕事じゃない。
あたしがこうやって悩むようになる前なら、一緒に遊んであげられたんだけどな。


アルマネイレア。
夢魔の力の中でも、夢の世界を自分のものにするのが得意な子。

この子は言うことないな。うまく扱えてるし、無理もしてない。
言うことないけど……血をまた濃くしようとしてるのは、どうなんだろう。
止めたほうがいいのかな?
……まあ、薄まらないなら、永遠にでも見守るつもりだから、いいか。


約束は守るから。
ずっと見てるから、やりたいようにやってね、
あたしの、かわいい子供たち。



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ぱち、と電気の爆ぜる音。



最初に"見つけた"のは、いつもと違う世界の海で。
なにか思い詰めてるみたいだったけど、やっぱり夢のことなのかな。
せっかくだから海に足つけちゃうとこ、あたしに似たんだね。

次に"見つけた"のも、その海で。
木の枝掴んで、文字書いてたね。
自分のなまえ、ひとの名前。
海に呑ませるところも、あたしにそっくり。

一番最近も、その海。
お気に入りの海があるのも、あたしと同じ。
せっかくあたしに似てるのに、きみはほとんど人間だから。
水の中では呼吸できないし、声を伝えることもできない。
しかたないから、通訳だけはしてあげたけど……
なんでも試そうとするところは、"あたし達"にも似てるんだ。

嫌になるな。


あたしの、かわいい子供たち。
みんなに流れている血は、人間のものと、夢魔のもの。
それと──

この、あたしの血。



海が、いくつに分けても、果ての見えぬ限り海であるように。
"あたし達"くらい、理から外れた"ひと"の血は──

どれだけ薄まっても、消えはしない。



ピースィレナイア。ロトリアシア。アルマネイレア。
きみたちは、"あたし達"とは違うから、
寿命だって、まともだから。
もしかしたら、気がつけないかもしれないけど……
それだけ、あたしと似てるんならさ。

"あたしの力"も、使えるんじゃない?

あたしみたいに怖がってばっかの、ピースィレナイア。
あたしみたいに遊んでばっかの、ロトリアシア。
あたしみたいに甘い考えの、アルマネイレア。


薄まる夢魔の血が、呪いだとしたら。
代わりに、あたしの力が祝福になるように。
少なくとも、あたしはそう祈ってるから。

だからさ、大丈夫だよ。
だって、あたしの子供たちなんだよ? 孫だけど。
この、あたしの!


"雷の槍"、"海の夢魔"!
キャラメル・ヴィレノル・ヘルメルワース・エドゥラウト8世・6号機・ふわふわ・メイラース・オーシャン・^q^・サンダーギガスピア・ヴィードラック・らら子の!


何があったって、大丈夫だよ、きっと。


そうだったとしたら、あたしも救われる。