RECORD

Eno.18 マネス・ミダスの記録

いずれ至る道

「神々にとって、我々に望むことは何だと思いますか、ノヌムルア」

「知らねえよ、クソ親父」

「ちょうどいい機会です、知っておきなさい」

二人揃って――いや、三人か。
自分が妻に迎えると決めた女性を横目に見ながら、父親である怪物を見る。
呼び出して、何の話をするのやらと思ったら、急に神々にとって望むことを語れという。

「平和な生活の維持、妖魔をこの星から追い払う事、それから信仰を捧げる事」

この3つではないか、と黄金の怪物の息子――ノヌムルア・ミダスは答えた。
その答えに対して、黄金の怪物は、一度は頷いて見せた。ただ、微かに微笑んでだ。
それだけでは、駄目だと言いたげな表情でもある。それが無性に腹が立ったが、
こちらから聞いても、その答えを素直には言わない。そんな事はよく知っている。
腐っても己の父親である。そういう、人の苦悩を楽しむような部分があるとよく知っているがゆえに。

「違うならそれで構わねえけどさ。俺はそろそろフェイリヤと――」

そう答えて、背中を向けた時に、飛んでくる声。

「神々は『乗り越える事』を望んでおられる」

「――は?」

「我々が、神あらずとも生きていけることを。
 その先に進めることを」

何の話を言っているのだと、思う。
この世界は神あってこその世界である。
少なくとも、青の神や緑の神、いや、いずれの神もこの世の律を担う存在である。
それが無くなればどうなるか――そもそも妖魔へと抗えなくなるのではないか。

「神を殺せ、などとは言いません。
 むしろ、大恩ある神々に対して、そのような不敬な真似。
 私は出来ませんよ」

ではなぜ、そんな事を言うのか。
今の言葉では、まるで神々が消えるのを前提としたような言い方であると思っていたが――。

「いずれ、我々は巣立たなくてはならない事もある。
 そういう事です。
 無論、全ての神々がそういう考えではないでしょうがね」

「それじゃあまるで」

「いますとも。
 いずれ人々が巣立つことを望む神もね」

「停滞し続ける事を望まず」

語る。
ここまで語る父親を見たのは、初めてかもしれない。

「歩むことを望む」

つまり、この父親は、いや、怪物を――。

「いかなる悪行であれ、望みであれ、それを果たした先にこそ」

「我々が先を進める力があるのだと」

「そう望まれている」


固まる。

「分かりますか、ノヌムルア」

その父親の問いかけに、返す言葉を、まだノヌムルアは持っていなかった。