RECORD

Eno.367 フィリア・バルナルスの記録

日記11

例えばコインの表を嘘だとしよう。
すると、人はコインの裏を真だと考える。
両面が嘘で、中身が真だと考える者の少ないこと。

嘘をついていた、と告白して。
その嘘の真実を話したとして。
人は、その真実を更に嘘だと疑うことはあまりない。


―― 『あたし』という人格は嘘でできている。
あざとく振る舞い、可愛さで人を好きにさせ、心を掴んで離さないための分かりやすい『嘘』。
演技だと分かる人は分かるし、分からない人はこの姿に虜になって妄信的になる。
あるいは、もう一つの嘘の引き立て役ともいえる嘘だ。


―― 『俺』という人格は嘘でできている。
粗暴で荒々しく、がさつで口が悪い。野性の本能を体現したかのような『嘘』。
今ではすっかり自身の素の性格となり、正直これが本性と言っても過言ではない。
では嘘ではないのか? と問われると、こちらも立派な嘘である。



強くなることを、捨てられて弱者は無価値だと理解する前の、本当の性格があった。
臆病で怖がりで人見知り。ウサギそのもののような性格。
押し殺して誤魔化して嘘で覆い隠して、今ではすっかり自分でも分からない本性。
特別見ようとしなければ、どこにあるかも分からない自分。
けれど、『野生』とよく似た気質だというのが問題だった。
共鳴型が故、獣の心と同化させる。
自分の野性たるウサギは本来の獣通りに臆病で、恐がりだった。
だから、野性として訴えてくるそいつは本来の自分自身の本心とも言えた。

何度も押し殺した。
殺して、目を逸らして、埋め立てた。
弱い自分は無価値だから。強くなって価値を作らなくてはいけなかったから。
無価値にならないために、そいつの首を裂いて落とした。





「…………。一度しか、言わねぇからな」

「……お前の事が大切だからだよ。
 お前の拙い演技に騙されてもいいと思うぐらいには、大切だから。
 だから、弱くたって良かった。泣きつかれたって、海に寄れなくったって良かったんだ。
 演じてるお前も、そうじゃないお前も。どっちもお前フィリアだろ。だから、良かったんだ」
「むしろ……頼ってくれて、嬉しかった。
 それがお前の気まぐれだろうが、ただそこに都合よくオレがいたからなのかは知らねぇ。
 どっちでもいい。どっちでも、少しはオレを信頼してくれたんだって、嬉しかったんだ






……弱者には価値がない。
だから、弱さを見せるのが嫌だった。
そうして弱いと知られて、自分の両親のように見捨てられることが怖かった。

別に大切な人でなければ耐えられる。
期待していない人からだったら耐えられる。
けれど。そうじゃない、特別な縁が切れることは。


どうして弱い私も肯定してくれるのか。
弱さを見せて受け入れてくれるのか。
分からないままだけど、特別に想ってくれていることはよく知っている。

だから今更疑うこともないし、むしろ。

ずっとずっと、息がしやすくなった。