RECORD
どこかの場所で
そこで密かに対面する水浅葱が二人。
ここでは、二人でないとできない話が行われようとしていた。

「あっはっは、まさかそなたから相談を受けるとはのう」

『……まあ、そうだな』

「……して、その相談というのは何かね?」
男からそう告げられた。
彼は喉笛を狙う緊張を振り切りながら話し出す。

『……ジジイ、俺はここに残りたい』
……暫しの沈黙。
男は何かを思案するように、彼の顔をまっすぐ見る。
そして、その心はと伝えられた彼は続けて言う。

『言い方がひどくなっちまうのは許してほしい。
俺はずっと、ジジイに身体を貸して、静かにジジイの活躍を見ていた』
『ジジイのことはもちろん尊敬しているし、元気に身体を動かせるならそれでよかった』
…ここで彼の言葉が少し詰まって、また話し出す。

『……だけど、あんたはつい最近、俺と分離する術を手に入れた。
その為に俺を現したんだろ?』
『それで久しぶりの自分だけで動ける時間ができたんだ。
自分の考えで戦えて、自分の考えで食べれて、自分の考えで話せるようになった』
『……だから、自分が自分であることに喜びを覚えちまった』
……彼の目から涙がこぼれ落ちる。

『それに、ここにいる奴ら、みんな、温かいんだ。
俺とあんたの口調は違うから、コミュニケーションが変わってしまわないか不安だったけど、
そんなことはなかった。変わらず接してくれた』
『……あんたが、馬鹿みたいに話してたらしいからな』
『改めて言うが、俺はここに残りたい。
……嫌なら断ったっていい。これは本当に俺の我儘だからな』
彼は口を止めた。
伝えられることは全て伝えた。
……暫しの沈黙の後、男が話し始める。

「……そなたの言いたいことはわかった。
確かに、俺はそなたを出す力を持つことができるようになったからそなたを出した。
……というのも、元からそれが目的だったしのう」
彼は少し驚いた。
ただ無闇に出して泳がしていたと思ったが、あえてそうさせたのかと。
その反応を他所に、男が続ける。
「一つの身体に二つの人格なぞ、不便であろう。
そうであるならば、こっちが都合が良いのう。
……二人いるから、歩きづらくなったのは否めないがの」

「……そしたら、ここに残る代わりに条件がある。
それを飲むのであれば残ってもよいのう」

『……その条件ってなんだよ?』

「それは二つあってな。
一つ、ここで粗相をしないこと。
二つ、そなたの身体をいただくこと、だ」
厳しいものを結ばされると思った彼は、あまりにも簡単な条件で拍子抜け。
その反応を見た男が話す。

「あっはっは!意外と思っただろう?だが、これでもちゃんと理由があるのだ」
「一つ目は簡単だ。そなたは俺より気性が荒いから、大人しくできるならばよいのだ」

『気性が荒いとは余計だな。これでもずっとお淑やかにしてたぞ』
彼のツッコミで男は笑う。

「はっはっは……いや、すまないのう。ここでふざけるべきではなかったの。
二つ目についてだが、これは俺の切実なお願いだ」
「俺の身体はもう見つからないからだの。見つかったとしても、とっくのとうに枯れているであろう。
それに、俺らは不老不死の身だ。名も身分もわからぬ仏様を使うのも気が引けるのだ。
驕るのも甚だしいのはわかっている。だが、分かれたこの身をいただいてもよいかね…?」
……男はその場で、彼に向けて身を伏せた。
そこからもまた、沈黙が場を満たす。
…彼の口が開く。

「……それくらいなら安いもんだ、お互い新しい人生を始められるからな。
……だが、こっちからも二つお願いがある。
一つ目は、元の世界に戻っても無事でいること」

「二つ目は、他人にしつこく構わないこと。
ジジイはいろんな方に話しかけすぎだ」

「それは……反省しておる」

「……わかった。その条件、飲もうではないか」

『あぁ、これで交渉成立だな』
彼がそう言うと、握手を求める。男はそれに応えるように手を握る。
『……これからは、お互い遠い親戚になるな』
「あっはっは!そなたは何を言ってるんだ!」
男が大きく笑うと、彼はとあることを思い出した。

『……あ、人違いがないように新しい服があればいいんだけど……』

「……それもそうだの」