RECORD

Eno.50 Liber·O·Igreedの記録

 石化が始まって、それがバレて、気を遣われる事が多くなった。
 石化は魔導クローンの宿命だ。死を怖がれない魔導クローンの、死の代わりの恐怖。

 ウッドカットはミカゼとここに居ない上司たち以外、魔導クローンだ。そのせいで皆、僕の首から覗く赤紫の石を畏怖する。

 雪かきの仕事をしようと皆の分を準備しようとすれば、一斉に持って行かれ。
 巡回に行こうとすれば「首見たら住民が怖がるから」と止められて。
 いざ仕事が来たからと動こうとすれば「休んでいい!」と言われて。

 完全に手持ち無沙汰になってしまった。

「別に何ともないんだけど」



 進行がゆっくりなせいもあって、あまり痛みも感じない。ベッドに寝込む事もない。
 なのに周りは心配に心配を重ねて、僕をメンバーから外すことが多くなった。

 溜息を吐いて、一人リビングで天井を眺める。その日も留守番だ。
 二階にミカゼは居るものの、あっちはあっちで仕事中だ。邪魔する訳にはいかない。

 やれる事はやりきってしまった。後は、寒空の下から帰ってくる連中の為に、温かい物を準備する事くらい。それもまだ数時間先。 

 だから、玄関を叩く音が不審だった。

 近所の人に何かあったか? とすぐに戸を開けた。

 まあ、僕は周りより背が高いほうだから。誰だか判別するには、顔を上げてもらわないといけない。
 茶色に染められた髪が、雪を払って。

 暗い目。

「あ――」



 咄嗟にその腕を掴んだ。
 素人が傭兵に敵うわけないだろ?
 どこで買ったか分からない、真新しい包丁を握ってさ。

 ……驚いて先端ギリギリだったのは、内緒だけど。

       ミカゼー! お前の兄ちゃん来てるよーっ!


 他の人が来るぞ、と脅してもタニムラ家長男は力を緩めてはくれず。

 結構、まずい。

 僕は魔導クローン。相手は純人間。

 僕の力をもってすれば、その腕を折ることだって出来る。
 この場合、純人間に聴劣化が手を上げたと大問題になってしまう。僕だけじゃない、『他の関係ない聴劣化』を巻き込んで、だ。

 第二の皮劣化だ、なんて。

 逆に、このまま包丁が僕の身体を貫いたら。
 何も問題にならない。折角綺麗にした玄関を汚す程度か。
 いや、嘘。普通に痛いし、素人に負けるとか僕のプライドが許さない。

 早く、早く来てくれミカゼ。
 僕がこの人の腕を捻じ曲げる前に。
 気を緩めて刺される前に。

 多分、不意に動いたもんだから、補聴器がズレてた。

 階段を降りる音も、驚いて止まる音も、互いに叫び合う声も、全く聞こえなかった。

 声がミカゼに届かなかったか?
 見捨てられたか?
 とか、不安になってたんだけど。

 大きく開いた僕の脇から、椅子を持った小さい男が飛び込んできた。

 聞こえなかったよ。けど、何するかは分かったから。

 僕は君を信じて手を離し、任せた。

 これでこの暴力沙汰は、兄弟間の喧嘩になったってワケ。