RECORD

Eno.50 Liber·O·Igreedの記録

 ミカゼも一応は傭兵である。ほとんど前線に出されることはなく、後方で指揮をとってはいるが。
 身体拡張手術を受けている事もあり、並の人間では歯が立たない。

 実の兄を吹き飛ばし、起き上がる前に椅子の四脚を両脇に突き立て身動を止めた。

 僕は一息ついて補聴器を付け直し、雪の上に落ちた包丁を拾い上げてくる。

「ごめん、補聴器ズレてて全く聞こえなかったわ」



 笑いながらミカゼに駆け寄るも、変わらず仏頂面。少し顔が青いか?

「……知ってる。呼んだ時の声が変だったからな」



 僕は分からないけど、補聴器を外した僕の声は音量が変になるらしい。自分の声も分からないから、調節しようにないんだ。

「じゃあなんだ、さっきのも聞こえなかったっていうのか!?」



 長男は、ミカゼの声を少し高くしたような、そんな声だった。

「お前が五奈を寝取ったんだろ!!」


「いやだなぁ。まだそこまでやってませんって」



 苦笑いを浮かべつつ、ミカゼの顔色を伺う。
 こちらを見て、ドン引きの顔。

 あと、そろそろ限界かもしれない。

「…………押さえるの、代わる?」


「いや、お前に任せる訳にも……いかないから……」



 魔導クローンが手を出したらマズい。
 それはそうなのだが、それ以上にミカゼの体調もマズい。

「お前のせいで五奈は、五奈は!!
 俺と寝るのを断るようになって、素敵な人と出会ったんだと抜かすようになって!!」


「あ!!あの!!!
 そろそろその話、やめませ――」



「黙れよ!!無理矢理押し倒しても泣き喚くばかりで!!
 折角の出来た子供を堕ろしてしまったんだ!!
 どうしてくれるんだギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア



 ミカゼは吐いた。兄の上で。

(続)