RECORD

Eno.566 マリナ・ザ・ストレンジの記録

● 《潮騒の》マリナ・ザ・ストレンジ - 8


私は、それを言われて初めて頭をバカンスから引き戻した。
”モンゴメリー”。私をここに呼び寄せた案内人の名前。
同時に、”モロー博士の島”に出てくる、マッドサイエンティストの助手の名。

嵌められた?

私はここまで、彼女に何を言ってきた?
私はここまで、彼女の何に同意した?
私たちの《零次観測地点ポジション・ゼロ》は、どこで重なった?

「どこでその名前を知ったのかしらあ?」

彼女は、温度の変わらない双眸をこちらに向け続ける。
思考の読みづらい、澄んだ海と同じ緑色をした瞳。

「ここにやってくる方はみんなそうなんです。
 最初は、島の外にいる”モンゴメリー”さんを待ってる。
 でも、ここは凪ぎますから。わたしが話し相手になるんです」

つまり、私は”モンゴメリー”という人物に騙された。
最初から迎えがくる予定のない南の島で、
一人気ままなバカンスをただただ楽しんでいたというわけだ。

とはいえ、だ。

「凪ぐって言ったって、限度があるでしょ?
 ここから何年も何十年も出られないなんてこと、」
「……?」

前言撤回。
何年も何十年も、同じ場所に閉じ込められる、
なんてことがありえないわけがない。

ありえないことがありえるのが、オカルトだ。
その上、この海域はバミューダトライアングルのど真ん中で、
どう考えたってオカルトに地の利がある状況なのだから。

「凪ぎますよ。ここは、そういう海ですから」

凪ぎますね。そうねえ。
一往復の会話の中で、それは既に合意されていて、
最小単位の《重複する零次観測地点シェアドワールド》として成立している。

目の前の彼女が何であろうと、私は同意をしてしまった。
最悪のパターンであれば、私は凪いだ海から出られない。
どこに出しても恥ずかしい、袋の鼠というわけだ。

「私のほかにここに来た人たちはどうしたの?」
「いまはここで暮らしてます」

つまり、終わらないバカンスが始まったということらしい。
バカンスは、終わるからこそ惜しまれるわけで。
終わらないバカンスを始められてはたまらない。
このバカンスを、私は終わらせる必要がある。