RECORD

Eno.367 フィリア・バルナルスの記録

日記15

やっぱり、と言うべきか。
路地で起きた出来事をを聞き、その末路に至る人間を見て。
当たり前のように『元暗殺者』だと名乗る者が居て。それを強みだと称して。
見境なく襲うことを『無益な事』だと称する者が居て。

それを聞いて、怖がったのは私だけだった。
異世界では、多分さほど珍しいことではないのだろう。

だったら、順応しなきゃ。
私が弱いんだから。
怖いなんて気のせい。ただいつものように獣が騒ぐだけ。

大丈夫。戦って気晴らしをすれば、いつも通りに振る舞える。
眠って夢を見るのなら、眠らなければいいだけ。

夢すら見ないほどに追い込んで意識を飛ばしてしまえばいいだけ。
対処法は思いついたから、大丈夫。






嫌だ。怖い。痛い。


――――

タルタニアは戦い方と居場所を与えてくれた。
あの人の野性は最低ランクであること以上に、人に向けると危険極まりないものである。そのため野性を使わずに戦う術を見に着け、人の範疇内で戦う技術がその辺のサヴァジャーよりも高い。
築いた場所は孤児に居場所を与え、独り立ちに必要な知恵や社会性を教えた。引き取ってもらうためではなく、一人で生きていけるように。

だから、協調性と社交性を得て、人を必要以上に疑う心もなく、健全な人となれた。
だから、一人で生きていくという考え方に拍車がかかり、弱肉強食の精神が根強く心を蝕んだ。



カミールは嫉妬と憧憬を与えてくれた。
彼女は天性の戦闘の才能を持っていた。些細な努力では、戦いに身を投じていない彼女に敵わないのだと教えられた。
平和主義でなければ、今頃彼女は名の知れたサヴァジャーになっていただろう。
才能の差を見せつけられた。その才能の差を埋めるには、努力しかないと知った。
今では目指す目標となり、憧憬を抱くようになった。

だから、後天性の努力をする才能と嘘をつく才能を手に入れることができた。
だから、彼女とは道を違え、一人で街を出て行った。



レナータは価値と健康を与えてくれた。
問題点に目を瞑れば腕のいい薬師だった。綿密に健康状態を管理してくれて、怪我や不調を患っても淡々と治療を行ってくれた。
自身の夢を肯定し、その助力をしてくれる。野性より人間性を重んじる彼女とは価値観や思想が似ていた。
感情論を軽視することもあり、自身の事情に深く関与することもなかったから自分の弱い部分を晒すこともなかった。

だから、何不自由なくカルザニア王国で夢へと挑むことができた。
だから、自身の深い部分を晒すことなどなく、弱い部分から目を逸らし続ける助力となった。



そんなのだから。
『頼り方』は分かっても、『助けの求め方』は分からなかった。

誰も、教えてくれなかったから。
それで、困ることも異世界に出てくるまでなかったものだから。

ウサギは、致命的に。『助けを求める』という行為を知らない。
人を疑っているわけでも、信用していないわけでもない。
ただ、弱者に価値がないからそれを隠して己の価値を守るだけ。
ただ、いつもの如く自分なりの『解決方法』を実行するだけ。



ウサギの物語に、太陽の中に住むウサギとカラスはいるけれど。
ウサギの物語に、月の中に住むウサギはあれどカラスはいない。