RECORD

Eno.367 フィリア・バルナルスの記録

日記16

どこかの境目から、意識が高揚し始めた。
手に無理やり括りつけたワイヤーが食い込んで、血が流れる。
その痛みが意識を覚醒させて、睡魔を振り払ってくれる。
昂る戦闘欲求。

戦って、戦って、だんだん楽しくなっていって。
人間性と、野性の輪郭が曖昧になっていく。


身体が軽い。
跳んで跳ねて、武器を振るって。


あは ほら  真っ赤な 血が

跳ねて 痛みが ルルル 走って  暴れテ


楽しい 楽しい!! ゥルルっと、 もっと!!







お願い、早く、私を眠らせて。


――――

彼女の世界では『人殺し』は重罪である場所が殆どだ。
あらゆる場所でそれは重罪に当たるだろうが、彼女の世界の多くの場所では『禁忌』とされることが多い。
少なくともウサギの住まう地方、スドナセルニア地方では全ての地域でそのように定められていた。

この世界では『略奪』という名目で、とある地方の人々が戦争をふっかけることはあるがそれ以外は基本起きることがない。
領土争いが起きるほど、人間の数がいない。
加虐欲求も攻撃的な性格も、サヴァジャーとして戦っていれば満たされる。
そもそも人間の数が少なくなるということは、モンスターが街を認識できずに侵入してくる可能性が高くなることに繋がる。
モンスターにとって、人間は糧にするには小さすぎる。攻撃的な性格から外を歩く人を襲うことはあれど、群れている場所に侵入することはリスクが高い一方で見返りが少ない。全てのモンスターがその性質に当てはまるわけではないため哨戒や見張りは必要だが、群れることには大きな意味があった。

結論として、『人を殺す理由』が我々と比べると淡いのである。
モンスターによる死と隣り合わせだという点と、『闘争は肯定』される点、それから人口を減らさぬように取り締まりが厳しい点からよほどのことでなければ起きないのだ。
人攫いや人間の家畜化などの事件は起きるが、やはりそれも死には至らない。


だから、ウサギは。
人が、人を殺すという『非常識』に身を震わせる。