RECORD

Eno.566 マリナ・ザ・ストレンジの記録

● 《潮騒の》マリナ・ザ・ストレンジ - 9


いくつかの問答の中で、漸く全容が見えてきた、ように思う。

この島は、旅人たちの最終到達地ラフテルであるとか、
いくつかのルールがこの島の中にはあるとか。
そのルールを破った人には罰として悪いことが起こるとか。

「静かに暮らすにはぴったりです。島の外は、騒がしいから。
 ……ちょっと不便はあるけれど、それも許容範囲、でしょう?」

確かに彼女の言うこと自体はあながち的外れでもなかった。
静かで、穏やかで、過ごしやすいと感じたことは嘘ではないし。
不便も慣れてしまえば受け入れられるものであるというのもまた真実。

けれど、気になるのはそれだけじゃない。

「ここに来た人は、みんな生まれ変わるんですよ」

彼女の、知ったような物言い。
確かに私も、暫く浸りっぱなしのインターネットを削ぎ落として、
言いようによっては生まれ変わったとも言えるだろうけど。

「あなたが何を欲しがってるかはわからない、けれど……。
 ここに、あなたを煩わせるものはないんです。きっと。
 ここなら、静かに暮らせますよ。皆、協力してくれます」

そして。

「逃げてきたんでしょう?」

彼女は、私がここに来た理由を知っていた。
私が、世間を離れてほとぼりを冷まそうとしているのを知っていた。

「ここでなら、やり直せます」

けれど、私がやり直す気がないことは知らなかった。
私は、私の一存で私を続けるということを知らなかった。

だから、私にはわかった。
彼女は怪異で、人と同じような言葉を使っているだけで。
本当のところは、何もわかっていないということがわかった。

「やり直しましょう?」

彼女が、こうして獲物を捕らえるということもわかった。
カリブ海に浮かぶ小島に、”モンゴメリー”氏によって導かれ、
ここに逃げてきた人々に対してきっと同じ言葉を掛けていることも。

「……要するに、擬態ってことよねえ。よくやるわあ」
「?」

ここは楽園であって、全ての罪が赦される。
その甘言に乗ってしまったら最後、ここから出られない。
つくりものの楽園が、ここ。

エメラルドグリーンの海の上に浮かんだ、
地球上で最もうつくしい楽園。

そして彼女が、魔の海域の中に潜む、怪。
人間を捕らえて離さない、海の悪魔。あるいは魔の海。
ご機嫌な観光客ではない、ビーチに潜伏中の小悪党だけを喰らう怪異。

つまり、Marina the Strange。
海の怪。

〈わたし〉という咎人とがびとが、祓うかくすべきものだ。