RECORD

Eno.50 Liber·O·Igreedの記録

 この辺りは、冬が近付くと風が強くなる。外に出たことのなかった当時の僕は、肩に掛けてた服を度々飛ばされていた。
 ちゃんと着ろというのは勿論なのだが、あの頃の僕の身長は既に180cmを越え服に困っていた。だから小さい服を破らず上に掛けるだけで凌いでいたんだ。

「ちゃんと育つと、2mは越えるんだとさ」



 服を拾ってくれた小柄な男に説明する。ミカゼからすれば、とんでもない数字だったのだろう。空を見上げてから、服を手渡す。

「……それは、そう造られているのか?」


「そ。他の魔導クローンみたいに、劣化で死ぬわけじゃないからね。
 残るのは耳の聴こえない肉体だけ。
 有用な資源、無駄にはしちゃダメなんだよ?」


「資源……」


「身体が大きいと、軍での使い勝手もいいから」



 僕は皮肉るように笑った。

「傭兵も同じだろ?」


「……気が進まないのは本当だ、と言いたいのか」


「そのとーり。だから断ってくれていいってことさ」



 その前日に渡した要項はキチンと読んで来ただろうに、君は変わらず暗い顔。昨日見た青褪めた顔のままではなかった。

「面倒だって、絶対。
 そもそも僕、劣化使えないから、捨て駒にされちゃうかも」


 服を掴んで大袈裟に震えてみる。当然、魔導クローンに死の恐怖はない。それを君は知ってるのか、冷ややかな目だ。
 僕はその暗い目を睨んだ。

「そもそも純人間サマが、誰かの命を握って潰すの絶えられないだろ?」



 そう。それが本能だ。
 僕を逃がした施設の人間だって、僕を魔導クローンであると分かっても死なせる事に同情した。殺すのに躊躇いがあった。
 倫理の整った純人間程、生き物の生死に揺らぐ。

 曰く、哺乳類は哺乳類の死を嫌悪するらしい。

「ま、だから僕は逃されたんだけどね。
 その辺で野垂れ死んででもすれば、僕を飼ってた使ってた連中は死を見ずに済むから。
 飼育放棄、無責任だろ?」



 最後の言葉は言わないつもりだったが、内にあった苛立ちが出てしまった。

 死の責任を負いたくなかった。死を選択するのを嫌がった。可哀想と同情した。
 だからといって、自分たちではどうしようも出来ないから、社会というゴミ捨て場に放棄した。

 きっと生きていける。誰かが拾ってくれる。
 生きてることは素晴らしい。

 そんな漠然とした善意のせいで、僕らがどれだけ苦労するかも知らずに。

無責任だ



 ミカゼが復唱した。
 ただ、その言葉はやけに震えてた。

 当時の僕は違和感にしか思わなかったが、今の僕なら分かる。

 共感したんだろ?
 君も無責任それに振り回された人だから。

「……………聴劣化。
 俺は、アンタが紹介してくれた所に行く。
 家から出れて、金が貰えれば十分すぎる」


「じゃ、僕も行かされるって訳だ。
 あ〜あ。めんどくさいね〜」


「捨て駒にはしない」


「君にその権限貰えるかね?」



 で、本当に今の今まで生かされるんだから、僕もビックリだよ。

 思い返せば、あれが君なりの責任の取り方だったのかもね。