RECORD

Eno.566 マリナ・ザ・ストレンジの記録

● 《潮騒の》マリナ・ザ・ストレンジ - 11


さて、わかったことはふたつある。
彼ら――この島にやってくる〈係数されざる者たち〉は、
決まって自分と似通った姿をした人物に滞在を勧められていた。

女なら女に、男なら男に。
動物的に種の近しい相手から、この島での過ごし方を習う。
あそこの何が美味しいとか、誰に何を聞けばいいだとか。

そして、自分と似たような人生を送ってきたという相手に誘われ、
この島に長期的に滞在することを選んでいる。

つまり、彼女の姿は向き合う相手によって常に変化するらしいということ。
怪異らしくなってきたけれど、つまりは擬態するということ。

その中でも、擬態には背景に似せて目立たなくする隠蔽的擬態と
目立つことによって捕食者や獲物を欺く標識的擬態があるわけだけど、
彼女は後者。何かから身を守るためではない、ミミックめいた擬態をする。
私も彼ら同様に「無害そう」だと彼女を見て思ったわけで、
一定以上に成果を出しているのだろうし、そこは疑う必要がない。

そして、ふたつめは――彼女は名を名乗らない、ということ。
彼女と言葉を交わした人々は、「あいつ」だとか「そいつ」だとか、
彼女を呼ぶ単語はあっても特定の名前で彼女を呼ぶことはしなかった。
詳しく聞いても、どういう名前だったか覚えていないと彼らは語る。

ということは、残念なことに彼女はundefinedな存在ということ。
怪異というのは名前が付いていない状態が最も強力で、
どんな存在にもなり得るということは周知の事実。

退魔師ならここからどうするかなんて簡単で、
適当にあなたは誰で、と名付けの呪いで解決するんでしょうけど、
お生憎さま、わたしはそういうのは好みじゃないから。

相手が海の悪魔なら、ちょうどいい。
言葉も死ぬっていうことを、さっくり教えてあげましょう。
「どんな存在にも」なってくれるなら、私好みに料理して。