RECORD
Eno.566 マリナ・ザ・ストレンジの記録
彼女を探そうとして、苦労することはなかった。
彼女はいつもふらりと物陰から現れて、さも偶然みたいな顔をする。
波打ち際を歩いていたら、唐突に後ろに立っていることもあった。
こんな風に。
「私の後ろに音もたてずに立たないでくれるかしらあ」
「ウフフ。でも殴ったりしないでしょう?」
私がデューク・東郷なら一夜を共にしたどんな美女だって
殴っていたんでしょうけど、残念ながら私は非暴力を謳っている。
彼女は殴られることもなく、楽しげに佇んでいる。
「最近、噂が立ってるのは知ってる?」
「噂、……ですか?」
「海辺に、麦わら帽子を被った赤い髪のお化けが出るんですって」
「……いいえ?」
この数日、私は島じゅうで彼女の話をした。
ビーチのそばのカフェテラスでも、小さな街の雑貨店でも、
波止場の隣の釣りスポットでも、夕飯時のダイナーでも。
彼らは刺激のない島で聞く刺激的な話に耳を傾けてくれたし、
なおかつ美人なら歓迎だと手放しに受け入れた。
そして、図ったように。
「あれじゃないか!? 幽霊の話!」
遠巻きに、誰かの声がする。
私と彼女が話しているのを観測する第三者。
誰でも良かった、撒き餌に引っかかってくれるひと。
怪異というのは専ら、観測されなければ存在できないのに
観測されればされるほど彼らの力は失われていく。
――いいえ、彼らの力を人々は信じなくなっていく。
悲しいけれど、現実はいつだって強固で冷ややかなもの。
愛すべき冷ややかな現実に、怪異のつけ入る隙はない。
怪異というのは、人に気付かれないうちが華。
怪しまれたら最後、彼らは現実に適応せざるを得なくなる。
ふと瞬きをする間に、彼女は消えている。
だから、彼女に目をつけられた悪い女はこう添える。
「さっきまでここにいたんだけれど……見えた?」
「み、見えたよ。麦わら帽子を被った――」
擬態というのは、解けなくなっては意味がない。
● 《潮騒の》マリナ・ザ・ストレンジ - 12
彼女を探そうとして、苦労することはなかった。
彼女はいつもふらりと物陰から現れて、さも偶然みたいな顔をする。
波打ち際を歩いていたら、唐突に後ろに立っていることもあった。
こんな風に。
「私の後ろに音もたてずに立たないでくれるかしらあ」
「ウフフ。でも殴ったりしないでしょう?」
私がデューク・東郷なら一夜を共にしたどんな美女だって
殴っていたんでしょうけど、残念ながら私は非暴力を謳っている。
彼女は殴られることもなく、楽しげに佇んでいる。
「最近、噂が立ってるのは知ってる?」
「噂、……ですか?」
「海辺に、麦わら帽子を被った赤い髪のお化けが出るんですって」
「……いいえ?」
この数日、私は島じゅうで彼女の話をした。
ビーチのそばのカフェテラスでも、小さな街の雑貨店でも、
波止場の隣の釣りスポットでも、夕飯時のダイナーでも。
彼らは刺激のない島で聞く刺激的な話に耳を傾けてくれたし、
なおかつ美人なら歓迎だと手放しに受け入れた。
そして、図ったように。
「あれじゃないか!? 幽霊の話!」
遠巻きに、誰かの声がする。
私と彼女が話しているのを観測する第三者。
誰でも良かった、撒き餌に引っかかってくれるひと。
怪異というのは専ら、観測されなければ存在できないのに
観測されればされるほど彼らの力は失われていく。
――いいえ、彼らの力を人々は信じなくなっていく。
悲しいけれど、現実はいつだって強固で冷ややかなもの。
愛すべき冷ややかな現実に、怪異のつけ入る隙はない。
怪異というのは、人に気付かれないうちが華。
怪しまれたら最後、彼らは現実に適応せざるを得なくなる。
ふと瞬きをする間に、彼女は消えている。
だから、彼女に目をつけられた悪い女はこう添える。
「さっきまでここにいたんだけれど……見えた?」
「み、見えたよ。麦わら帽子を被った――」
擬態というのは、解けなくなっては意味がない。