RECORD

Eno.566 マリナ・ザ・ストレンジの記録

● 《潮騒の》マリナ・ザ・ストレンジ - 12


彼女を探そうとして、苦労することはなかった。
彼女はいつもふらりと物陰から現れて、さも偶然みたいな顔をする。
波打ち際を歩いていたら、唐突に後ろに立っていることもあった。

こんな風に。

「私の後ろに音もたてずに立たないでくれるかしらあ」
「ウフフ。でも殴ったりしないでしょう?」

私がデューク・東郷なら一夜を共にしたどんな美女だって
殴っていたんでしょうけど、残念ながら私は非暴力を謳っている。
彼女は殴られることもなく、楽しげに佇んでいる。

「最近、噂が立ってるのは知ってる?」
「噂、……ですか?」
「海辺に、麦わら帽子を被った赤い髪のお化けが出るんですって」
「……いいえ?」

この数日、私は島じゅうで彼女の話をした。
ビーチのそばのカフェテラスでも、小さな街の雑貨店でも、
波止場の隣の釣りスポットでも、夕飯時のダイナーでも。

彼らは刺激のない島で聞く刺激的な話に耳を傾けてくれたし、
なおかつ美人なら歓迎だと手放しに受け入れた。
そして、図ったように。

「あれじゃないか!? 幽霊の話!」

遠巻きに、誰かの声がする。
私と彼女が話しているのを観測する第三者。
誰でも良かった、撒き餌に引っかかってくれるひと。

怪異というのは専ら、観測されなければ存在できないのに
観測されればされるほど彼らの力は失われていく。

――いいえ、彼らの力を人々は信じなくなっていく。
悲しいけれど、現実はいつだって強固で冷ややかなもの。
愛すべき冷ややかな現実に、怪異のつけ入る隙はない。

怪異というのは、人に気付かれないうちが華。
怪しまれたら最後、彼らは現実に適応せざるを得なくなる。

ふと瞬きをする間に、彼女は消えている。
だから、彼女に目をつけられた悪い女はこう添える。

「さっきまでここにいたんだけれど……見えた?」
「み、見えたよ。麦わら帽子を被った――」

擬態というのは、解けなくなっては・・・・・・・・意味がない。