RECORD

Eno.210 花布 栞の記録

こころ

「………」


「やっぱり薄情に見えたかな」



雑貨屋からの帰り道。鏡のように顔を映す窓を覗き込む。
感情が読み取れない顔は今に始まったことじゃないけど。

悪であるとは思っていない。損も得も両方ある。
きっと動揺も何も読み取られはしなかっただろう。
冷え切った手だとか、そういうものに触れられたなら話は違ったが。
幸い彼は触れる腕もなく、彼女の片腕は焼け焦げて、迎えに来た者も早々に手が塞がったから。

感情を表に出したくない。
拾い上げてくれる人はもういないから。
最後に泣いたのは1年前の祖母の葬式だった。

ああ、自分も結局意味にとらわれてるなんて皮肉だな。
『意味のないものは嫌いか』と
いつだか彼に問いかけたことがあった。
それが人間らしさであると知った上で
一番意味がないものを許していないのは私自身なんだろう。

自分自身の価値が一度毀損されてしまっているから。
深く考えてこなかったものに段々と気づいていく心地。

「ああ、嫌だな」



眠そうな声で呟く。
何に対して言った言葉かなんて自分でも知りもしない。
現状か、この薬か。

小瓶をかざして掲げる。
できることなら手放したかった、人の命を握っている薬。
あの四肢はこの薬なしに治るのだろうか。
鉄の匂いと肉の焼ける匂いが思い返される。
暫く肉はいらないと伝えておこう。

問い詰める間もなく去ってしまったけれど
そもそもあんな状態になった時点で生きている方がおかしいものだ。
人の血肉を喰らい炎を吐く生き物は、果たして。

「……手紙、届いたかな」



それどころじゃなかったから聞きそびれた。
こんなことを気にしているのはおかしいだろうか。
ただ気を紛らわせているだけかもしれない。

何度か石畳に躓きながら、その日は帰った。