RECORD

Eno.378 カナリア・クリフォード・ディアの記録

海月

それは、大体2年ほど前の事。
とある場所から従者と共に帰還した令嬢は、また屋敷へ戻って日常を過ごしていた。
何もやれなかったな、だとか、けれど従者に良い友人ができていたようだったから、それは良かったな、だとか。

……一緒に戻ってきて良かったのだろうか、だとか。
いや、祖父はあぁ言えど、あの従者のことだから当然とばかりにきっと聞いても頷くのだろうけど。
自分には勿体ない。

従者を伴う事無く訪れた近くの海を、そうしてぼんやりと眺めていた。

と。

 …

…… …

 …  …… …
  …

…  … ……

何か小さな笑い声のような、囁き声のようなものが耳を掠めた。
辺りを見渡しても誰も、何もいないように見えて、なんだろうかと首を傾げていると。

「…… !きゃっ… 」

つるり、と頬を何かが撫でていく感覚。
もう一度見渡す。何もいない。

「ッ、」

首元、肩、腕、手、足。
滑るように何かが触れて、けれども何も見えないが故にそれがなんなのかが分からない。
ただ、魔力が蠢いているの感じるものだから、それを持つ何かなのだろうけれど。

『かがやき?』

声がする。先程よりはっきりと。

『そうかも』
『そうだよ』
『でもちいさいね』
『かげってるよ』
『うすいね』
『でもかがやきだ』
『きえそう?』
『きえそう!』
『かわいい!』
『こないだのかがやきは?』
『つよかった!』
『よわいねえ』
『よわいかがやき』 
『ひさしぶり?』
『そうかな』
『そうかも』
『よわいとなんだっけ?』
『しんじゃうかも!』
『ちがうよ』
『ちがったっけ』
『おむかえできないかも』
『そうだっけ?』
『いましねばおむかえできるかも』
『そうしちゃう?』
『だめだよ』
『おこられちゃうよ』
『やだ~』
『”やくそく”はぜったいだよ』
『え~』
『じゃあどうする?』
『どうしよっか』
『どうしようね』

つるつる触れる何か。
さわさわ喋る何か。
物騒な事も聞こえるけれど、今はただ触れて喋るだけ。

唇を結ぶ。
これは魔物の類か、そうでないか。
害のあるものか、或いは。
特に口を挟む事無く、令嬢は暫しそのまま、動かずに耳を傾けていて。

『みてようかな』
『あそびたいな』
『ちいさいかがやき』
『かわいいね!』
『みていよう』
『そうしよう』

ぱしゃん、と。
水が跳ねる音。

海月のような小さな何かが幾つも、視界に入った。

『かわいがってあげる』
『かわいいからね』
『かわいいかがやき』
『まもってあげる』
『かがやき』
『ちいさいかがやき』
『かわいいままでいてほしいな』
『ちいさいままかわいいからね』
『でもそだつかも』
『そだったらおむかえできるよ』
『おむかえできる』
『じゃあどっちでもいいね』


くるりくるりと宙に踊る。
令嬢を差し置いて囁き合って、そして。

『あそびにきてね』

ぱしゃん。
見えたときと同じように水が跳ねて弾ける音。

そうしてそれらは見えなくなった。
一方的に話されて、両腕を軽く擦る。
……何だったのだろうか、と。

考えても今は答えは出ないまま。
















これが、最初の不可思議な出会い。