RECORD
Eno.460 アドリアードの記録
雪が降る森のなかで
作戦行動をしている最中、
雪の中を行軍することは珍しくなかった。
むしろ雪は物心ついたときから目にしているから、
見慣れたものとして慣れてもいた。
雪がちらほらと舞い落ちるなか、
樹々のあいだを進んでいく時間は静かだった。
冬季迷彩のほどこされた服装に身を包み、
銃剣を背負っての長時間行軍。
響くのは自分の足音だけ。
白い吐息をまとわりつかせて、
真っ白な景色のなか、進んでいく。
静かに進んでいくなか、聞こえた小さな小さな物音。
焦らず急がずに背中の銃剣を手に構え、
聞こえた方角へと向ける。
相手に位置を悟られないよう、
しっかりと消音器も取り付け近づいていく。
雪が樹々から落ちただけか。
それとも敵兵が潜んでいるのか。
意識していない不安と緊張が胸に積もっていくなか、
聞こえた場所へと辿り着く。
そこにいたのは、老いた白狼であった。
二足歩行ではない四足歩行の種。
だが、耳を見ればそこに小さな切り取り痕はなく、
野生であることが伺える。
注意深く観察してみれば、
呼吸をしている様子はなく、毛並みは立っておらず、
すでに死んでいることがわかった。
同時に胸のうちに積もっていた緊張と不安が霧散する。
念のため、ほかに不審な点はないかを確認。
倒れふした白狼にちかづき、その身に触れておかしな点はないかを見る。
痩せ細った体躯には傷が散見され、生きてきた年月を偲ばせる。
粉雪のつもった部分を払いながら、
薄く開いていたまぶたを指で閉じてやる。
この寒さと雪だ、獲物を見つけるのも難しく、
生きるだけでも難儀であったろう環境で彼は長く生きていた。
家族はいたのだろうか、それとも一匹であったのか。
周囲を見渡してもそれらしい姿は見えず、
足元を見ても家族らしい足跡もなかった。
そこまでを理解して思ったのは、
彼は自由に生きたのだなと。
手に構える銃から伝わる冷たさに生を実感しつつ、
その日生き抜くことばかりを考えることしかできず、
周りの環境に依存しなければ命を明日につなぐこともできない。
いや、小さく頭を振る。
生きていることさえ、ある種、強制されているのだと。
自分のため、国家のため、戦争のため、生かされている。
勝手に死ぬことなど許されない。
死んでいいのは戦場でだけ。
死ぬぐらいなら敵兵を道連れにしろとまで言われている。
そこまで思考して思うのは、
彼が羨ましいのだろうかと。
誰にも依存せず、自らの力だけで生き抜き、
そして媚びることも諂うこともせず、
一人静かに最期を迎えるその姿を。
しばしの間、行軍することも忘れ、
命を失った白狼を見つめていた。
雪の中を行軍することは珍しくなかった。
むしろ雪は物心ついたときから目にしているから、
見慣れたものとして慣れてもいた。
雪がちらほらと舞い落ちるなか、
樹々のあいだを進んでいく時間は静かだった。
冬季迷彩のほどこされた服装に身を包み、
銃剣を背負っての長時間行軍。
響くのは自分の足音だけ。
白い吐息をまとわりつかせて、
真っ白な景色のなか、進んでいく。
静かに進んでいくなか、聞こえた小さな小さな物音。
焦らず急がずに背中の銃剣を手に構え、
聞こえた方角へと向ける。
相手に位置を悟られないよう、
しっかりと消音器も取り付け近づいていく。
雪が樹々から落ちただけか。
それとも敵兵が潜んでいるのか。
意識していない不安と緊張が胸に積もっていくなか、
聞こえた場所へと辿り着く。
そこにいたのは、老いた白狼であった。
二足歩行ではない四足歩行の種。
だが、耳を見ればそこに小さな切り取り痕はなく、
野生であることが伺える。
注意深く観察してみれば、
呼吸をしている様子はなく、毛並みは立っておらず、
すでに死んでいることがわかった。
同時に胸のうちに積もっていた緊張と不安が霧散する。
念のため、ほかに不審な点はないかを確認。
倒れふした白狼にちかづき、その身に触れておかしな点はないかを見る。
痩せ細った体躯には傷が散見され、生きてきた年月を偲ばせる。
粉雪のつもった部分を払いながら、
薄く開いていたまぶたを指で閉じてやる。
この寒さと雪だ、獲物を見つけるのも難しく、
生きるだけでも難儀であったろう環境で彼は長く生きていた。
家族はいたのだろうか、それとも一匹であったのか。
周囲を見渡してもそれらしい姿は見えず、
足元を見ても家族らしい足跡もなかった。
そこまでを理解して思ったのは、
彼は自由に生きたのだなと。
手に構える銃から伝わる冷たさに生を実感しつつ、
その日生き抜くことばかりを考えることしかできず、
周りの環境に依存しなければ命を明日につなぐこともできない。
いや、小さく頭を振る。
生きていることさえ、ある種、強制されているのだと。
自分のため、国家のため、戦争のため、生かされている。
勝手に死ぬことなど許されない。
死んでいいのは戦場でだけ。
死ぬぐらいなら敵兵を道連れにしろとまで言われている。
そこまで思考して思うのは、
彼が羨ましいのだろうかと。
誰にも依存せず、自らの力だけで生き抜き、
そして媚びることも諂うこともせず、
一人静かに最期を迎えるその姿を。
しばしの間、行軍することも忘れ、
命を失った白狼を見つめていた。