RECORD

Eno.307 ルカ&ファーディの記録

悪夢

痛い。熱い。気持ち悪い。全身に苦痛が満ちる。
体の中身が外側に向かってぐちゃぐちゃと飛び出していってしまいそうな感覚。
うずくまって手を地につく。その手は既に人間のものではなかった。
制御できない体は人としての形を失って、肥大化して。
それに引きずられるように頭から理性が消えていく。

わけのわからない衝動に駆られて、体中から生えた触手で地面を弾くように連続跳躍した。
人里を見つけて飛び込む。壊したい。壊したい。壊したい。
違う、いやだ、壊したくない。傷つけたくない。殺したくない。やめて。
なけなしの心で叫んでも体と衝動は止まらなくて、僕は――

目が覚める。悪夢を見ていたらしい。でもあれはただの夢じゃない。今の僕のすぐ隣にある道だ。
ファーディがいなければ、僕はきっとそうなる。
早く一人でも体を制御できるようにならないと。

それにしても、どうせ見るんだったらいい夢を見たかったな。
たとえば、僕とファーディと兄上で遊んだときの思い出とか。
……そんな夢を見たら家族のことが恋しくなってしまいそうだけど。

◆◆◆

眠らされているルカが台に横たわらせられる。
その身体が合成モンスターに改造されていく様を俺は見ているしかできない。
やめろ。やめてくれ。それ以上ルカの体を弄らないでくれ。
叫んでも周囲には聞こえない。俺は肉体を奪われ魔法で拘束されていた。
体があったら涙も流れていたかもしれない。

無力感に満ちた時間が終わってから間もなく。周囲の人間が何人か死んだ。
ルカが目を覚ましていた。けだもののような瞳。変異していく体。
動けない俺はルカの暴走を眺めているしかできず。
ようやく拘束が消えたとき、無我夢中でその体に入った。

それからときが進んで、俺とルカは退治すべき怪物として追われていた。
時折追手が現われる。戦うのは俺の役目だ。
傷つけるのも死なせるのも本意じゃなかったが、やらなきゃルカが死んじまう。
ただ戦いの最中、俺は言い様のない高揚を感じていた。
たぶん、そういう風に作られているんだろう。所詮俺もモンスターだったってことか。

壊したい。殺したい。衝動を抑えつけて戦い、相手はなるべく無力化するに留める。
そんな余裕の無い相手もいた。……仕方なかった。本当に?
苦しみが長引かないように変異した爪を振るうとき、悲しみと悦びが同時に体を駆け巡った。
全てが終わってから呆然とする。赤く染まった手を見下ろす。自分が、おぞましい。

そこで目が覚めた。俺自身は普段は睡眠ってモンがいらねェ。
ただエネルギーを使い過ぎたときの休眠状態中に人間で言うところの夢らしい現象は起こる。
ハズレの夢を見たときはやっぱり気分が悪い。

『起きたぜ、ルカ』
既に活動していたルカに声をかけると、ルカはわざわざ姿見の前まで歩いていった。
「おはよう、ファーディ」
鏡越しに微笑まれる。
……おぞましい経験はしたが、それでこの笑顔を守れたと思えば。救われたような気持ちになる。
俺はルカを守り抜けたんだ。そこは誇っていいはずだ。