RECORD
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5月上旬。ついに、その日が来た。
相変わらず夜遅くまで仕事をして、睡眠時間もロクにとってない深い隈のある顔。ミカゼが部屋から出て来た瞬間、クラッカーを鳴らした。

「よ! 誕生日おめでとう!!」

「うおっ……!
あ……? あぁ、そう言えばそんな日か」
魔導クローンに誕生日はなく、1月1日に皆で祝う。純人間であるミカゼだけが祝う日が異なるから、周りもミカゼ自身も忘れがちになるのだ。

「まったく……自分の大事な一日を忘れるってどうかしてると思うよ」

「別に……」
どうでもいい。それ以上に大事な日がある。
そう言いたげに口が動いた。言葉は補聴器では聞き取れなかったが。

「俺はお前たちの祝い日で満足してる」
クラッカーから飛び出した紙テープを帽子から剥がしながら呟くのだけは聞こえた。

「1月1日のやつ? 特別感、無!!」

「それで歳が分かるからいい。
それに、一人だけ除外されるも寂しいだろ」
ミカゼの誕生日を祝ってるのも僕くらいだ。確かに寂しいと言ったら寂しいかもしれない。

「君も随分魔導クローンに毒されたよね〜っ」

「誰のせいだろうな」

「誰のせいだろうな〜。僕は悪くないからなぁ〜っ」
腕を組んで悩むフリをすれば、ミカゼに集めた紙テープをぶつけられる。またゴミが散る。

「掃除の手間!!」

「元はお前が出したゴミだろ」

「うわ!しかも静電気で結構張り付く!!」

「おい!分かって俺の帽子に乗せるな!」

「いーっひっひ! 金属の腕で取ろうとしても静電気で引っ付いてやーんの!」

「ならば第二陣」

「あーー!!ブーツの中に紙クズ入れんなチビ!!」

「隙だらけなんだよ」
誂って、言い合って、罵って。
しょうもない、ありきたりな日。
毎年、来年があるか分からないからと言ってプレゼントの帽子を渡していた。
けど、それが本当に現実になってしまって。

「今年のプレゼント、準備出来なくてさ」
ブーツから握りつぶされた紙吹雪を叩いて出す。
首の石が痛みと共に存在を主張してくる。

「気持ちだけでいい」

「一年間被り続けた帽子、気持ち悪くない?
ちゃんと洗ってる?」

「気にする所ソコなのか?」

「いやぁ僕が『暗い顔隠せ』って言い出したこととはいえ、ずっと帽子被ってるんだもん……
将来君が禿げないか心配で心配で……」

「なあ、気にする所ソコなのか?」
どのみち、禿げた君を見れることもないのだけれども。

「だから毎年新しい帽子準備してたんだけどさ。
本当に最後になるんだと思ったら、何も選べなくて」

「気にするな。そもそも、俺はこの帽子アリィーに渡そうとしたし」

「は?」

「断られたが」

「は?? 当たり前だろ何やってるんだ君?
ていうか、僕があげたやつをなんで人に渡そうとしてるんだよ!」

「お前だったら許すだろうと思って」

「は〜〜〜〜〜〜っっっ」
頭を抱えた。ごめんね見知らぬアリィー君。こんなクソ野郎なんだよコイツ。

「許すか許さないかって言ったら、僕はバーーカって言います!
このバーーーーカ!!」

「よし。ならやっぱり大丈夫だったな」

「バーーーーーーカ!!!」
許さない訳では無い。それが分かってるのもまた嫌だった。

「はぁ〜っ なんか腹立たしくなってきたな。
やっぱ遅くなっても君の誕プレ考えようかな」

「だから気にしなくて良いって。
それに、最後のプレゼントとか重すぎる」

「あー、重い……重いかぁ……」
ミカゼは今、愛した人を喪い引き摺っている。
そこに自分という重しが追加されたとすれば。
もはや枷だ。過去に縛る鎖。
下手したら、限界を誘うトドメになってしまうかもしれない。
そう考えてしまうのは、自意識過剰か。
手袋の手を叩く。乾いた音。

「冷蔵庫にケーキがあるんだ。食べよう」
ミカゼは頷いた。