RECORD
Eno.367 フィリア・バルナルスの記録
『天津風 ⅩⅣ』
指定された場所は、ダオドラのとある広場だった。
そこは闘技場ではなく、外でサヴァジャー同士が決闘や気軽に手合わせを行うための場所として作られた。
足を運べば舞台にも似た即席の場所ができており、ぐるりと囲むように何百という人間が居た。
見慣れない機材もいくつかあり、何が始まるか検討もつかなかった。
21時ちょうどになれば、突然舞台の照明が上がる。
5人の人間が立っており、うち4人はこの世界では珍しい楽器を持っていた。
そして、楽器を持っていない人を、自分はよく知っていた。

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辺りから歓声が上がる。それこそ、闘技場のそれと何ら変わらない人々の熱気が。
長いピンク色の髪を揺らし、最後に会った日よりも着飾って、随分と愛らしくなった自分の姉がそこには立っていた。

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中には自分と同じように困惑している人間が居た。
恐らくそういう人は、自分と同じく『勧められて来てみた人』だったのだろう。
置いてけぼりになっていても、周りはおかまいなしだ。

歌と言えば、各地を渡り歩き、訪れた街や村で歌を奏でる吟遊詩人、あるいは旅芸人のそれらを指した。
あるいは各地に伝わる民謡などを誰もが思い浮かべた。そもそもここは、歌という文化が大して重要視されていない場所だった。
ここで、舞台に立ち、機械で光り輝かせ、人々を魅了させる。
力こそ全てであるこの街で、戦いとは異なる方法で人々を熱狂させ、虜にさせる。
桃色のウサギが歌えば、観客は高らかに掛け声を掲げた。
桃色のウサギが踊れば、観客は釣られて身体を揺らした。
踊り終えて歌が終われば、拍手喝采。
何も変わらない。
我々人間が、野性を宿し獣と生きる者たちの享楽と。
戦い、力がぶつかり、荒れ狂う暴力を見世物としてきた、それと。
スポットライトだけではない。
月光を浴びて、声援を受けてウサギが跳ねる。
桃色のウサギは、紛れもなくアイドルだった。

吐き出された感嘆の声は、誰の耳にも届かなかった。
『勝利以外無価値』だと吐き捨てられるこの街で。『闘わない見世物』は、享楽として成立していた。
それは間違いなく、月見て跳ねるウサギが成し遂げた偉業だった。
そこは闘技場ではなく、外でサヴァジャー同士が決闘や気軽に手合わせを行うための場所として作られた。
足を運べば舞台にも似た即席の場所ができており、ぐるりと囲むように何百という人間が居た。
見慣れない機材もいくつかあり、何が始まるか検討もつかなかった。
21時ちょうどになれば、突然舞台の照明が上がる。
5人の人間が立っており、うち4人はこの世界では珍しい楽器を持っていた。
そして、楽器を持っていない人を、自分はよく知っていた。

「みんな~! お待たせ~!! カミールだよ~!!」

フィリア
「は――」
辺りから歓声が上がる。それこそ、闘技場のそれと何ら変わらない人々の熱気が。
長いピンク色の髪を揺らし、最後に会った日よりも着飾って、随分と愛らしくなった自分の姉がそこには立っていた。

カミール
「今日が初めましての人も! いつも来てくれてる人も!
皆を楽しませちゃうからよろしくねぇ~!」
「うおおおおお!! カミールーーー!!」
「いいぞーーー!! 我らがウサギーーー!!」

フィリア
「えっ、えっ、なんだこのテンション!?」
中には自分と同じように困惑している人間が居た。
恐らくそういう人は、自分と同じく『勧められて来てみた人』だったのだろう。
置いてけぼりになっていても、周りはおかまいなしだ。

カミール
「それじゃあ一曲目、『月見て跳ねる』、いっちゃいまーす!
皆ー! 月をも砕く勢いで行くからついてきてねぇ!」
歌と言えば、各地を渡り歩き、訪れた街や村で歌を奏でる吟遊詩人、あるいは旅芸人のそれらを指した。
あるいは各地に伝わる民謡などを誰もが思い浮かべた。そもそもここは、歌という文化が大して重要視されていない場所だった。
ここで、舞台に立ち、機械で光り輝かせ、人々を魅了させる。
力こそ全てであるこの街で、戦いとは異なる方法で人々を熱狂させ、虜にさせる。
桃色のウサギが歌えば、観客は高らかに掛け声を掲げた。
桃色のウサギが踊れば、観客は釣られて身体を揺らした。
踊り終えて歌が終われば、拍手喝采。
何も変わらない。
我々人間が、野性を宿し獣と生きる者たちの享楽と。
戦い、力がぶつかり、荒れ狂う暴力を見世物としてきた、それと。
スポットライトだけではない。
月光を浴びて、声援を受けてウサギが跳ねる。
桃色のウサギは、紛れもなくアイドルだった。

フィリア
「…………すげぇ」
吐き出された感嘆の声は、誰の耳にも届かなかった。
『勝利以外無価値』だと吐き捨てられるこの街で。『闘わない見世物』は、享楽として成立していた。
それは間違いなく、月見て跳ねるウサギが成し遂げた偉業だった。