RECORD

Eno.367 フィリア・バルナルスの記録

日記26

―― 本当に、本当に些細なことだった。

乱闘を行っていて、姉の名前を耳にした。
正確には姉の名前に似た花の名前だけど、それでほんの少し寂しくなった。
たったそれだけ。もう大人なのに、らしくないホームシック。
異世界に来ているせいで、普段なら気にならないようなことも気になってしまうだけ。



弱いところを見せることには抵抗がある。
だけど今は恋人関係。それなら、人から見て『甘える』という行為は何の違和感もない。
相変わらず自分は振る舞いの計算をしてしまう。

ちょっと甘えさせてね、と体重を乗せる。この人は嫌がらないと分かっている。
何かあったか? といった視線を向けられる。
案の定というか、そうなる気はしていた。本当に大したことじゃないから掘り下げないでほしいんだけど。


「や、マジで大したことじゃねぇよ」



「お前の『大したことない』と『大丈夫』は信用しねぇことにしてんだよ。
 ……話したくねぇなら別に言わなくても良いけどな」




言えると思う???
姉の名前に似た花の名前を耳にして寂しくなりましたとか言えると思うか???
俺の大したことないと大丈夫は8割信用していいやつだが???
お前が目ざとく2割を見つけてきてるだけなんだよいい加減にしろよ???



「マジで聞かないでほしい。
 俺の自尊心のためにも。マジでほんっっっとにしょーもない理由だからさあ……」



「…………」
「まぁ、じゃあ良いんだが」




本当に手を引いてくれてよかった。
……これ素直に口にしていたらどうしてたんだろう。
もれなく自分の自尊心とかプライドとかそういったものはズタボロになってたと思うけど。

好きにしていいって何もしなかったか。
子供っぽいと指さして笑ったか……いや、今はしないと思う。出会ってすぐならしていた気がするけど。
そういえば、こっちのことを揶揄って笑うことってないな。スフェーンにはあんなに挑発的だし、周囲の恋バナにはとても悪そうな顔をするけれど。
単純に自分の恋バナをするには度胸がないからか。小物か?

「―― 寂しいと私が口にして、そうしたら応えてくれる?」


「…………や」


「俺が耐えられねぇからなし」




無価値を晒す行為は、やはり嫌悪感が強い。
それに、耐えられなかったら申し訳がない。
……寂しさが埋められて、叶わない期待をして、また寂しさを覚える。