RECORD

Eno.367 フィリア・バルナルスの記録

日記27


被食者で。追われる立場にあった。
それは自身も同じと言える部分がある。

弱くて無力で虐げられる。
その中に、『殺意』はなかった。


人を殺すという行為の強い嫌悪感。
法や倫理観を除いても、生存本能が禁忌と示す。
多産多死。人と人同士で殺意を向けるくらいなら、モンスターに向けた方がよっぽど健全。
あるいは、ある程度の棲み分けが行われているからこそ、無縁な人間はどこまでも無縁。
それこそ、「殺人事件のニュース」を一生聞かずに障害を終える人間だっている程度には。


乱闘で遭遇したから、重傷でも傷は塞がった。
そうでなくても軽傷では済んだ。剣と剣がぶつかって、少しだけ傷を負った。その程度。
一度だけだった。自身に刃が到達したのは。その一度だけ。

―― 次は必ず仕留めるという強い意志
純粋な殺意を、生まれて初めて受けた。



――――

「それでも稀に、無法地帯であるプロアスタル地方以外の人間でも人殺しに手を染める人はいらっしゃいますけどね。
 勿論病気や野性の影響を度外視して」


「え? 人殺しをした方はどうなるのか、ですか?
 人死にがご法度のこの地において、死刑が執り行われるのか?」


「……知っていますか?
 かつて薬品や医学の実験は、ネズミを使っていたそうです」


「ですがここではネズミは凶暴で獰猛。そんなもの、とてもではないが扱えない。
 ではどうするか? 丁度良い実験体とは?



「……おや、この先はご遠慮しますか。
 賢明ですね。『人殺しは死罪より苦しむ』というお話はそういうことですよ」


「ではお大事に。
 間違っても、ロメジア地方のサ=ガにある某研究機関の人間にこのことを聞いてはなりませんよ」



「―― より倫理観のイカれた人間たちの言葉を聞きたくなければね」