RECORD

Eno.809 フレイムスカージの記録

処刑人の言葉

ああ、やめてくれ。
その時のことなんて話したくもない。
あんなものに関わったのが間違いなんだ。

……。
なんてったってケチの付け始めは、近くの村で罪人が出たって話を聞いたところからだ。
どうせ泥棒だろう。冬だったからな。食い詰めた奴が蔵に盗みに入ったって不思議はない。
近くで鶏泥棒が出たってえ話もあったから、どうせそんなもんだろうと。

行って驚いたよ。
納屋で縛られてんのは、魔物のような男だった。
ああ、髪が真っ赤でね、目も、人間じゃありえねえ金色で。
ボロボロのマントをつけてたが、悪魔の翼のように見えたもんさ。

聞けばそいつは、まだこの村じゃ何もしてないって言うじゃないか。
村人を問い詰めたら、なんでも、教会の方から触れが出てるとよ。
処刑する予定の罪人が逃げ出したから、見つけたら殺すようにと。

溜まったもんじゃねえと思ったよ。
馬鹿正直に厄介事を持ち込んだ馬鹿をこそぶん殴りたかったが、教会の触れに逆らうわけにもいかない。
俺はそいつを処刑するよう、村人共に迫られた。
しかしやっぱり、殺したくはなかった。

優しさ?馬鹿言え、そんなもんじゃない。祟られたら嫌だと思ったんだ。俺だって命は惜しい。

俺は、罪人にも告解を受ける権利はあると言い張って、教会に神官を呼びに行くよう言い含めた。
そうやって悩む時間を作ったが、名案なんて湧いてこない。
一番近い教会へは、徒歩なら行って一日、戻るのに一日だ。
しかし戻りは神官を連れてくるから、馬になるかもしれない。どの道猶予はあまりない。

そうして納屋で、悪魔を睨んでいると、そいつは俺に向かって言ったんだ。

あんた、おれを怖がってるな。って。
──そうとも、お察しの通りおれは悪魔だ。おれを殺せば祟りが起きるぞ。
水は淀んで麦は腐り、異形の魔物が川を下ってやってくる。
ああ、火で浄めても無駄だ。
地獄の業火という言葉を知らないのか。あらゆる炎は我がしもべ。
この血肉を火にくべたが最後、我が体は毒となり、お前たちの息を止めてやる。
この腐れた血肉で大地を汚すが良い、それでこそ、我が主の望む世になるというもの。

それでどうしたって?
お察しの通りさ。俺はそいつの縄を外してやった。
すると悪魔は、俺の頬をひとつ殴り、どこに隠していたのか、銀貨を数枚、放って寄越した。

派手な痣が残ったお陰で、俺は咎められなかったよ。
本当に、恐ろしい思いをした。
あんな思い、二度とごめんだね。