RECORD

Eno.58 ミオリッツァの記録

―――日記その15

 ああ神様、どうかその御力で他の者をお救い下さい。

 これほどの老い耄れよりも、もっと若い者をお救い下され。

 病で肌は爛れ穢れたこの身には、決して近づかぬよう。

 この村はもう死にました。あなたは救えなかったのです。

 我が子が救われぬなら、もう歩く気力などない。

 せめて痛みが小さく済むよう、祈ってください。

 神よ、私はここを道の終わりとします。


 ………
 ……
 …
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 海原と崖が見えた。
 蟲の集る村の扉がある。
 散らばり転がる物がある。
 無音の揺り篭から悪臭がする。
 焦げ落ちた炉辺に黒い人形が。
 枯れた井戸のような虚ろな目。
 空に踏み出す一歩と破砕音。
 信仰故に、絶望故に、諦観故に。
 汚れ穢れ爛れ塗れ削げ落ちる。
 蟲が、畜生が、鳥が、魚が集る。
 赤く赤い湿った臭いの所に。
 乾いて黒く変色した瘡蓋に。
 手から零れ落ちた生命に。
 あちこちに、そこら中に。
 が救えなかったものが。
 どうしようもなく散らばっている。
 .
 …
 ……
 ………

 思い返しは自分の所為だ。
 決して彼女の所為ではない。
 海風の匂いの所為だ。

 だから、酒でも飲んで、不貞寝しよう。
 これが忘れられなくたって構わないのだ。
 忘れてはならないことなのだから。
 これがオレ・・の歩んだ道なのだから。