RECORD

Eno.809 フレイムスカージの記録

神官の言葉

日々、さまざまな異端者が火刑に処せられます。
世に神の威光を信じぬものは尽きず、悪魔の誘惑に魅せられる者も、なくなることがありません。

その日もわたくしは、先輩である神官に付き従い、刑場に赴きました。
罪人が次々に縛られ、火にかけられていきます。
肉の焦げるにおい。焼かれもがく罪人の悲鳴を聞くのもいつもの事。

列をなす罪人の中に、その男はいました。

付近の牧場で捕えられたその男は、みすぼらしく汚れ、
身なりは、どこにでもいる汚らしい傭兵の姿でした。
しかしその髪は血のように赤く、近くで見ればその瞳も、ぎらぎらとした金色で。
破れた服の隙間から覗いたものは、鱗にひどく似ていました。

恐怖するわたくしに、別の神官が、あれは呪いだと告げました。
竜の呪いを受けた男なのだと。
そんな生易しいものなのでしょうか。
あの瞳。この世全てを睨み、憎んでも憎み足りないと示し続けているような瞳は、
目が合えばそのまま、命を刈り取られるような気さえしました。

あれはこの場で殺さねばならぬ。
だが本当に、火によって死ぬのだろうか。
疑問を抱えたまま、男の番がやってきます。

罪状が読み上げられ、祈りが捧げられます。
その後は手続きの通りに、火がつけられる──筈でした。

他の罪人共々、男が柱に縛り付けられ、火をつけようとしたその時、馬が刑場になだれ込んできたのです。
近くの牧場から馬が逃げたのだと、誰かが叫ぶ声がしました。
捕まえてくれと懇願しているのは、牧場で働く者でしょう。
混乱の中、馬が……いえ。

馬に乗った誰かが、あの悪魔の火刑台を倒すのを見ました。
顔は見ていません。黒いローブを頭から被り、黒馬に乗ったそれは、地獄の使いのように思えたのです。

わたくしは、他の神官や異端審問官共々、叱責を受ける事となりました。
ですが、誰があの場で毅然として振舞えるでしょう。
悪魔が、地獄から使いを呼んで混沌としたあの場所で?
主は私達に御使いを下すことはなく、悪魔の使いだけが訪れたあの場所で!

わたくしはその後、異端審問官となる道を断たれ、僻地での布教を任されました。
左遷ではあるのですが、わたくしはそれで構いませんでした。
わたくしはもう、いかなる悪魔にも、罪人にも、会いたくはありませんでしたので。