RECORD

Eno.307 ルカ&ファーディの記録

複製品

人間を人工的に生み出せる世界で、その生命体――『クローン』をお金で買える話を知った時。
とても魅力を感じた。自由に使える、何をしても良い人間の体。
ファーディが憑依して乗っ取れば……僕たちは二人に戻れる。

でも、魅力的なのに、僕はその実行を決断できなかった。
作り物とは言え人命をお金で買って使い捨てることのような気がして。
それが恐ろしい、おぞましいことのように思えて。

ファーディだって度々僕に貸さなきゃいけない体より、全てを自由にできる体の方がいいに決まっている。
……だけど……

相談をしたけれど、ファーディも悩んでいるみたいだった。
結局、僕が完全に体を制御できるようになるまで……
すなわちファーディが僕の体にいなくても大丈夫になるまでは保留にしようという結論になった。
そうなるまでは考えても仕方がないから、考えないようにしようと。

……なのに時々胸に去来してしまう。
二人になる為に、僕たちは『商品』を買うべきなのか。

◆◆◆

あの野郎マジで妙なことばっか吹き込んでくれやがるな畜生が!
利になるかならないかで言えばなるってのがよりタチ悪い。

確かに以前考えたことはある。
憑りついても問題のないような、生命はあっても魂のねェ廃人の肉体でもねーかってな。

だが恐らくクローンには自我があるんじゃないか?
種族は違うが俺も実験器具の中で目覚めた時、既に自我を持っていた。
生命があって知性があって心がある。そんなの普通に人間じゃねェか。
自分の為に一人の命を踏み台にするのは遠慮したい。

だがここでややこしくなるのが、その命が商品だってことだ。
クローンは俺たちが買わなくても別の誰かに買われて使い捨てられるだろう。
人間様にいいように使われる為に作られた人工生命体、恐らくろくな扱いは受けねェ。

……早々に俺が体を奪って、意識も五感も断ち切って『終わらせる』方がまだましな生になるんじゃねえか。
そんな思いが拭いきれない。それともこれは言い訳なのか。
俺は自分と同じ人工生命体を犠牲にするのか。葛藤に蝕まれる。ああ、畜生。

しばらく考えねェようにするってルカと話をまとめたのに、折に入って頭をよぎる。
……試合にでも行って色々吹っ飛ばしてくるか。
フラウィウスの闘技は好きだ。傷ついても死なねェし、相手を殺しちまうこともねえし。