RECORD

Eno.367 フィリア・バルナルスの記録

『天津風 ⅩⅦ』

ナハト
「カミール、客が来ている」


カミール
「誰だろ。今いきま~す!」





フィリア
「…………よお」


カミール
「えっ、フィ、フィリアちゃん!?」




姉のライブを見た一週間後。タルタニアから姉の居る場所を聞き、訪ねに向かった。
どうしても、会っておきたかった。


フィリア
「…………」


カミール
「…………ええと、とりあえず……外、いこっか?」






会話もロクにないまま、街の郊外へと向かう。ダオドラは街と外の境界線がやや曖昧な場所で、中心部から離れれば自然豊かな地に変わる。
こういった場所には、大して戦果を挙げられないサヴァジャーやなんだかんだ生き抜く術を身に着けた孤児のたまり場になっていた。
特に沿岸部は水棲モンスターによる危険地帯と指定されている。そこに追いやられた力なき人間は、それこそ人柱とも捉えられるだろう。

草原を強い風が吹き抜けていった。姉の長い髪が風に遊ばれる姿は、それだけで様になっていた。


フィリア
「……見たぜ、ライブ」


カミール
「……うん。来てくれてたの、知ってた。
 それと、ナハトさんが……全部、喋ったって」


フィリア
「…………俺のこと、可哀そうなやつだって。
 だから、哀れんで、助けようとしたのかよ」


カミール
「ううん。違うよ」


カミール
「フィリアちゃんは。
 私にとって、大切で大好きな……かけがえのない妹だからだよ」


フィリア
「――、」


カミール
「それじゃあ……だめかなあ?」




フィリア
「……俺は」


フィリア
「それでも姉貴が嫌いだ。
 才能があんのにその才能を生かさねぇ。
 頼んでもねぇのに俺のことを守ろうとしやがって、気に食わねぇ」


カミール
「…………」


フィリア
「……俺は! お前に助けてもらわなくてもいいぐらいに強くなるからな!
 もう守る必要なんてねぇんだって教えてやらぁ!」


フィリア
「だから見てろ!
 お前のやり方を、真向から否定してやる!!」


カミール
「…………ふっ、」


カミール
あはは!
 それじゃあまずはサヴァジャー試験合格を目指さないと、だね!」




今でも目に焼き付いて離れない。
舞台の上で輝いて、人を魅了し熱狂させる姉貴の姿が。
戦いとは別の形で、この世界へと叛逆を試みるウサギの姿が。


だから、俺も。
姉貴みたいになりたいって思ったんだ。



その日から嫉妬は、憧憬へと形を変えて。
俺は、自在に風を吹かせられるようになった。