RECORD
Eno.182 西森風香の記録

アレーナからてくてくと歩いた先にあるビーチで、お祭りをしていると聞いたのは昨夜のこと。
その日はいつもの服装のまま立ち寄って、焼きモロコシを食べたり射的をしたりして楽しみ、
ついでに帰り際、夏祭りには浴衣なる服装が適していると聞いた。
そう言うわけで、翌朝になってフェルムはフィンの手を引いて雑貨屋に向かい、
そこで浴衣を探して、なぜか羽織を買って帰って来たのだった。
人類への理解度が低いフェルムは、当然の如く、和装への理解度も低い。
水着の上に着るユカタだよ!と自信満々に羽織を見せられた、彼女らと同室の風香はと言えば、
しばらく反応に困った後、日本人スキル・愛想笑いを発動してツッコミを避け、
その結果、勘違いは解消されないまま、水着に羽織を引っ掛けたスタイルで現在に至る。



フェルムに問われて、フィンはきょろきょろと屋台を見回してから、あっと声を上げて一つの店を手で示した。
二人で手を繋いで近付いて行くと、赤い飴に包まれたリンゴが、鉄板の上に並んでいる。

小さいサイズのリンゴ飴を一人一つずつ買って、波打ち際の方に行き、手頃な岩に腰掛ける。
体格同様に口も小さいフィンは、ぱりぱりと飴を齧った後、やっとリンゴをしゃりしゃり食べ始めるが、
フェルムの方は一口目から、バリバリと飴を砕いてリンゴと一緒に食べていた。

知っている人、知らない人、たくさんの人が行き交うお祭りの風景を眺めたり、
海の方を振り返り、どこまでも続くような真っ黒い海面と、その上できらきらと煌めく星空を見上げたり。
複数の世界の境界線にいるような、ちょっぴり特別な気分になる。
フィンの言葉を聞いて、フェルムもお祭りの光景と、海岸線とを交互に見てみるが、
いまいちピンと来ていない顔で小さく首を傾げた。

人間への理解度、と言うよりも、人間と星の区別も大して付いていないような口ぶり。
フィンより早くリンゴ飴を食べ終わり、残った串を玩具のように振りながら、

人間のことも、祭りの起源も理解する気がないフェルムだが、楽しんでいるのも本心だ。
ニコニコ笑うフェルムにつられて、フィンもふにゃーっと笑顔になって、残ったリンゴ飴をしゃりしゃりと食べる。
特に会話はないものの、のんびりと同じ景色を眺める時間は、お互いにとって心地よい。
しばらくの時間が流れて、フィンもリンゴ飴を食べ終わった頃に、ドンと大きな音が響いて、空が明るくなる。
反射的に顔を上げると、海の上に、大輪の光が咲いていた。

フェルムは最初、あれは何だろうと首を捻ったが、周りから「花火だ」と聞こえて、なるほどと言う顔。
フィンの方も、最初の音に一瞬驚いたようだったが、花火と気付けばきゃっきゃと歓声を上げる。
そんな少女の様子を見ながら、フェルムは何となく、小さな手を握り、声をかけた。


問われたフィンが、不思議そうな顔で答えるのを見返して、
フェルムは一瞬目を丸くした後、吹き出すように笑い出した。

無邪気に笑い合いながら花火を見上げて、フェルムは座っていた岩から立ち上がる。
お祭りの熱気を楽しんでいる内に、時間が経つのも忘れてしまっていたが、
もうすっかり子供は眠る時間になっている。

食べ終わった串を片付けた後は、また二人で手を繋ぎ、花火を見ながらのんびりと宿に帰って行った。
side: 星空とお祭り

「わ、今日もやってるやってる!」
「おまつり、です!」
アレーナからてくてくと歩いた先にあるビーチで、お祭りをしていると聞いたのは昨夜のこと。
その日はいつもの服装のまま立ち寄って、焼きモロコシを食べたり射的をしたりして楽しみ、
ついでに帰り際、夏祭りには浴衣なる服装が適していると聞いた。
そう言うわけで、翌朝になってフェルムはフィンの手を引いて雑貨屋に向かい、
そこで浴衣を探して、なぜか羽織を買って帰って来たのだった。
人類への理解度が低いフェルムは、当然の如く、和装への理解度も低い。
水着の上に着るユカタだよ!と自信満々に羽織を見せられた、彼女らと同室の風香はと言えば、
しばらく反応に困った後、日本人スキル・愛想笑いを発動してツッコミを避け、
その結果、勘違いは解消されないまま、水着に羽織を引っ掛けたスタイルで現在に至る。


吊るされた灯りの下を歩くと、足元から伸びる影が、彼方此方へと踊る。

「屋台の食べ物いっぱいあるし、昨日とは違うのを食べようかな。
フィンは食べたいもの、ある?」
フェルムに問われて、フィンはきょろきょろと屋台を見回してから、あっと声を上げて一つの店を手で示した。
二人で手を繋いで近付いて行くと、赤い飴に包まれたリンゴが、鉄板の上に並んでいる。

「これ? おやつかな、美味しそう!」
「りんごあめさん、です!」
「リンゴ飴って言うんだ! すみませーん、リンゴ飴くださーい」
小さいサイズのリンゴ飴を一人一つずつ買って、波打ち際の方に行き、手頃な岩に腰掛ける。
体格同様に口も小さいフィンは、ぱりぱりと飴を齧った後、やっとリンゴをしゃりしゃり食べ始めるが、
フェルムの方は一口目から、バリバリと飴を砕いてリンゴと一緒に食べていた。

「おいしい、です…!
それからね、おまつりも、おそらも、うみも、ぜんぶみえるの、ふしぎ、です」
知っている人、知らない人、たくさんの人が行き交うお祭りの風景を眺めたり、
海の方を振り返り、どこまでも続くような真っ黒い海面と、その上できらきらと煌めく星空を見上げたり。
複数の世界の境界線にいるような、ちょっぴり特別な気分になる。
フィンの言葉を聞いて、フェルムもお祭りの光景と、海岸線とを交互に見てみるが、
いまいちピンと来ていない顔で小さく首を傾げた。

「んー、そんなに違うように見えるかな。
僕には、あっちもこっちも、同じように賑やかに見えるや」
人間への理解度、と言うよりも、人間と星の区別も大して付いていないような口ぶり。
フィンより早くリンゴ飴を食べ終わり、残った串を玩具のように振りながら、

「区別はつかないけど、賑やかなのは楽しいよ!
面白いね、お祭りって。フィンと一緒に来て良かった!」
人間のことも、祭りの起源も理解する気がないフェルムだが、楽しんでいるのも本心だ。
ニコニコ笑うフェルムにつられて、フィンもふにゃーっと笑顔になって、残ったリンゴ飴をしゃりしゃりと食べる。
特に会話はないものの、のんびりと同じ景色を眺める時間は、お互いにとって心地よい。
しばらくの時間が流れて、フィンもリンゴ飴を食べ終わった頃に、ドンと大きな音が響いて、空が明るくなる。
反射的に顔を上げると、海の上に、大輪の光が咲いていた。

「わ、すごい音! なんか光った!
何だろあれ……あ、花火? 花火、すごいねえ」
「どーん、ぴかぴか、です!」
フェルムは最初、あれは何だろうと首を捻ったが、周りから「花火だ」と聞こえて、なるほどと言う顔。
フィンの方も、最初の音に一瞬驚いたようだったが、花火と気付けばきゃっきゃと歓声を上げる。
そんな少女の様子を見ながら、フェルムは何となく、小さな手を握り、声をかけた。

「あのさ、フィン。最初の音にビックリしてたでしょ。
あれ、怖くなかった? 大丈夫?」

「? えと…
ちょっとだけ、びっくりしたけど、こわくないの。
だってね、フェルムちゃんが、いっしょだもん」
問われたフィンが、不思議そうな顔で答えるのを見返して、
フェルムは一瞬目を丸くした後、吹き出すように笑い出した。

「あはは、そうだね!
僕が一緒だから、危ないことなんてないもんね!」
無邪気に笑い合いながら花火を見上げて、フェルムは座っていた岩から立ち上がる。
お祭りの熱気を楽しんでいる内に、時間が経つのも忘れてしまっていたが、
もうすっかり子供は眠る時間になっている。

「わ、あっという間に深夜になっちゃってる。
明日もお祭りはあるらしいから、今日はもう帰って寝よっか」
「うん!」
食べ終わった串を片付けた後は、また二人で手を繋ぎ、花火を見ながらのんびりと宿に帰って行った。