RECORD

Eno.367 フィリア・バルナルスの記録

幕間Ⅱ

「…………」



友人が、聞きなれない地名まで行ってくると告げた。
レンジャー業(街の外でモンスターを狩ったり、植物や鉱石を調達してくる。サヴァジャーの資格が必須)による定期便は
代理人を立てたらしいし、ちゃんと準備して向かってはいたけれど。

地図に名前のない街なんて探せばいくらでもある。
王国と何かしらの繋がりがある国しか記載されておらず、小規模でひっそりと営みを続けるような場所は触れられない。
それこそ、旅人がたまたま見つけて知っている、程度の場所がせいぜいだ。


ましてや、野性の持たない人間などこの地にいるはずない。
野性とは、病だ。獣の突然変異を齎したそれと、やや違った方向性で対応した結果が我々人間だ。
生きられないのだ。野性を持たぬ人間は、この世界にはそもそも適応できずに死に絶える。


「人ではないのであれば、その限りではないのでしょうが」




昨日、フィリアがR.I.P錠を服用したから目を覚ます手段を教えて欲しいと電話がかかってきた。
彼の話は、まるでここではないどこか遠くの者の話のようだった。
一旦仮に、全てを真だと仮定した。


「あいにく、この身は人間ではございませんから。
 それにあなた方と住んでいる世界も違います。
 生きる為に野生を、などという進化をしていないのですよ」


「そちらの世界でも白雪姫は伝わっているようで」


「安心して下さい。騙してもいませんし、人質でもございません。
 そもそもどちらとも起こす意味がございませんでしょう?
 騙す意味はありませんし、人質なら眠らせていたほうが好都合。
 聡明なレナータ様ならお分かりでしょう、この程度」




「やっぱり踊らされていませんか、これ?」



人質なら眠らせていた方が好都合。
とは言うが、野性を持たない人間にとって我々の力は奇跡にも等しい。
例えば。野性の力を利用されている。力を搾取されないため、自ら薬を服用した。
利用価値があるからこそ、目を覚まさせようとしているとすれば。

「……それはそれで、おかしい箇所が2点」


「わざわざ私に連絡を取らず、書いている通りのことを実行すればよい。
 私に連絡を取ることは、リスクが大きすぎる。
 仲間にわざわざ危機を知らせてどうするんだって話になりますし」


「もう一つ。何で燃やさないんですか?
 火事になるから? さっさと燃やしてしまえばいいのに。
 傷つけない方法など非効率的すぎる




もしも正しい方法で利用されたならば。
野性が暴走して、自己判断で飲んでいたのだとしたら。
P1である以上、戦闘本能が高まり暴走した等、彼女自身の問題であることは基本的にはない。
野性と自己が同化することもなく、野性を客観視できている。その程度には野性の影響が薄い。
つまり、他者による要因で発狂症が出たと考えてよい。


「……可哀そうだから傷つけたくないとでも仰るのでしょうか」


「はっ」


「くだらないエゴだこと。
 身体にメスを入れることが野蛮だから、投薬で治療をするとでも?」


「大体。彼女をこのようにしたのはあなたたちでしょうが」








「……あ。
 力技で起こすなら12時間以降で72時間以内に、と伝えておくの忘れていましたね。
 普通に衰弱して目が醒めなくなるんですが……」


「そうなってしまいましたら、それこそあのお薬の名前の通りですね。
 安楽死になっちゃったら……あーあ、と合唱しますか